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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
12章 麒麟支部との戦い
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12章-5.支部への襲撃とは 2005.4.12

 土煙が舞い、銃声が絶え間なく鳴り響く。僕達は相変わらず戦場へ出ていた。


 麒麟(キリン)は資金源を完全に失ったことで、見る見るうちに規模を縮小していった。SSランクプレイヤーは雇えなくなったことで数も減り、残すはほぼ麒麟に所属をしている人間だけになったのだ。

 それはつまり、麒麟の戦力は有限になったという事を意味する。削った人間はもう補給されない。削った分だけ麒麟にダメージが入るという事だ。


 僕達は現在、麒麟の支部の1つである、武力拠点へ襲撃を行っている。大人数で攻め入っているのだ。別働隊だった青年達だけではなく、幼い子達も引き連れて、総戦力で挑んでいた。

 とにかく規模の大きい拠点であるため、人数がどうしても必要だった。幼い子を危険な任務に連れていく事は可能な限り避けたかったが、作戦上やむを得なかった。もちろん幼い子達には比較的危険度が低い仕事を任せている。


 また、高ランクプレイヤーの応援が僕達の方へ来ないように、麒麟の本部を攻める(アカツキ)達と連携し、同じタイミングで行っている。

 その甲斐あって、今の所、僕達が攻める麒麟の支部にSSランクプレイヤーは居ない。個人戦でグラより強いプレイヤーはいないという事だ。

 

 だが、一方で低ランクのプレイヤーや、戦闘員は山のようにいる。数の暴力とはまさにこの事で、少数精鋭の僕達は苦戦していた。

 一人一人は大したことはなくても、何人も相手にするのは非常に厳しい。隙あらば四方八方から弾丸が飛んでくる。休む事なんて出来やしない。気を抜けば撃ち抜かれてしまうだろう。


 麒麟の戦闘員達は、捨て身の攻撃も仕掛けてくるようになった。組織とは恐ろしいもので、捨て身の攻撃をする者は、薬物などで洗脳されていると考えられる。

 味方諸共消そうとしてくる麒麟の滅茶苦茶なやり方には本当に参っていた。


 自爆する人間は薬を使用されているからか、見るからに様子がおかしいため、分かりやすい。遠目からでも見分けが付く点だけは良かったと言える。

 とはいえ、既に何人かは麒麟の戦闘員達の自爆に巻き込まれて怪我をしている。自爆の可能性がある人間を野放しには出来ないので、自爆される前に殺すか、自爆を誘発させて回避する事が求められ、危険が伴うからだ。非常に難易度の高い戦闘を強いられている状況と言える。


 幸い命に関わる怪我では無いが、僕達も徐々に戦力を削られていると言える状況である。

 僕は誰一人として失うつもりは無いのだ。撤退も視野に入れつつ状況把握に努める。


鬼百合(キユリ)、怪我人は?」


 僕の元へ、音も無く静かにやってきた彼女に問いかける。黒の上着のフードを脱ぎ、顔を見せた彼女は、周囲を警戒しながら僕を見上げた。


「応急処置をした後、戦えそうなら後方支援する方針に切り替えてます。攻める速度は落ちてしまいますが……」

「うん。無理しないやり方で行こう。グラと天鬼(アマキ)と鬼兄弟が元気に暴れてるから、攻めよりもその取りこぼしを確実に潰して欲しいかな。やっぱり敵の人数が多いから、漏れも多い」

「分かりました」

「戦うのが厳しい怪我人達は?」

「えっと……。私の判断でシェルターに送りました。戦うと言って聞かないのでちょっと気絶してもらって……」

「ん……?」


 キユリは僕から視線を逸らし、ほんの少しだけ気まずそうにしている。

 グレーに着色されたレンズの眼鏡越しに見える、燃えるようなオレンジ色の瞳はとても不安そうだ。僕に怒られると思っているのかもしれない。


「拳で?」

「はい……。拳で……」


 どうやら、酷い怪我をしても戦うと言う子を、彼女が武力で分からせたようだ。少々荒っぽいが、時間が無い中ならやむを得ないだろう。

 彼女の判断で戦ってはいけないとしたならば、それ程の傷を負ったということなのだ。言う事を聞かない方が悪い。


「ありがとね。助かるよ。引き続きお願い」

「分かりました」


 キユリはニコッと笑うと直ぐに姿を消した。すると直後、彼女と入れ替わりで今度は斗鬼(トキ)が僕の元へとやってきた。


「内部の様子は?」

「ヤバいですね……」

「ははは」


 黒のパーカーのフードとスポーティなオレンジ色の眼鏡を取り外したトキは、渋い顔をして言う。


「人数が多すぎて、グラ(にぃ)達が倒しても倒してもキリがないくらいです。背後に回り込まれて囲まれないように調整はしてますが……」

「厳しそう?」


 トキは頷いた。


「退路だけはしっかり確保して、必要なら攻める速度を落として良いから」

「うーん……」


 彼は再び渋い顔をする。


「グラ達が止まらない?」

「はい」

「ふむ……」


 全く、グラ達は何をやっているのか。狂気を大量に喰らって、楽しくなって夢中で暴れているのかもしれない。

 格下相手に無双しているはずなので、気持ちは分からなくもないが。


 この様子だと恐らくトキは、グラ達にスピードを落とすように依頼しているのだろう。だが、聞き入れては貰えなかったのだと察する。

 だとすると、別に何か急がなければならない理由がある可能性もある。それをトキに伝える余裕もないほどの理由が。


 それであれば僕が直接その状況を見て判断した方が良いだろう。


「分かった。僕が行くから。トキは引き続き退路の確保をお願いね」


 彼は深く頷くと姿を消した。

 僕は小さく息を吐いた後、戦いの最前線の方へと向かった。


***


 現在僕達が攻め落とそうとしている麒麟の支部は、広大な敷地を持つ。その敷地内に複数の低層の建物が並んでいる。1番高くても4階建てだろうか。

 敷地の周囲には高い塀が築かれているため、外部から見れば、工場を持つ会社の敷地だと見られるだろう。実際建物内部の用途としては、事務所や倉庫、そして戦闘員達の宿舎だ。

 

 倉庫と宿舎を燃やし、プレイヤーの数を少しでも削る事が本日の襲撃の目的だ。完全な制圧は可能であれば行いたいところだが、敵の人数と規模を考えると厳しいだろう。

 欲張って死人や怪我人が出ては意味がない。僕達は無理のない範囲で攻める事を重視している。とは言え、既に怪我人が出てしまっている。そろそろ撤退しなければと僕は考えていた。

 

 戦いの最前線――グラ達が戦う場所は、事務所用途の4階建ての建物内だ。

 僕は武器である鋏を分解しそれぞれの手に持つと、気を引き締めてその建物へ足を踏み入れた。


 建物に入ると直ぐ、僕の前に鬼神野(キジノ)が現れた。彼は深く被ったフードを取り去り、僕に顔を見せる。


「状況は?」

「今の所、進行具合は少し遅れ気味ですが、想定の範囲内です。ただ自爆が厄介で……。深追いが出来ないので処理に時間がかかっていたり、自爆に巻き込まれて怪我人が出てます」


 やはり自爆攻撃は厄介だ。近接攻撃がメインの僕達にとっては、避けるのが難しい。

 戦う場所や距離感に注意しなければならない。戦いに慣れていない子達は苦戦している事だろう。

 

「連携は出来てる?」

「はい。何とか。現状はグラ(にぃ)達の動きに合わせられてますが、人数を削られているので徐々に厳しくはなってます。トキとキユリとは上手く連携できているので、そちらは問題ないです」

「分かった。ありがとね。引き続き暴れん坊達のフォローをお願い」

「はい」


 一応陣形は崩れてなさそうで安心する。

 実際のところ鬼人達と共鳴してはいても、詳しい状況までを読み取るのは難しい。覚醒組と近距離で強く共鳴すればそれなりに読み取れるのだが、広範囲に散らばる場合、詳細な把握は厳しくなる。


 そこで、トキ、キジノ、キユリの3人には、伝達係として僕と現場を繋ぐ役割をしてもらっていた。

 キユリは怪我人達の管理と配置換えの調整、トキには退路の確保と戦闘陣形の維持、キジノにはグラ達特攻部隊の戦闘補助を任せている。


 彼等は適宜僕から判断を仰ぎつつ、役割を果たしてくれている。本当に頼もしい。

 彼等のおかげで、今回の作戦が上手くいっていると言って良いだろう。


百鬼(ナキリ)さん。最前線、向かいますか?」

「うん。そのつもり」

「なら、先導します。取りこぼしが隠密している可能性が高いので」

「ありがとう。助かるよ」


 キジノはこくりと頷き走り出した。僕も彼に続いて走る。

 

 僕達が進む建物の廊下には沢山の死体が転がっていた。グラ達が通り抜けた後なので、灰色の壁には多くの血飛沫や細かい肉片が飛び散っている状態だ。

 その様子からも、彼等が大暴れしたのが分かる。自爆する隙を与える事無く、とんでもない勢いで一方的に殺したのだろう。


 暫く進んだ所で、僕の前を行くキジノが突然立ち止まった。敵だろうか。僕も立ち止まり武器を構える。

 すると、僕達の行く手を阻むように、近くに隠密していたらしい麒麟の人間が次々に姿を現した。おおよそ20人程度だ。

 

 キジノは彼等を見ても一切怯むことなく敵陣に切り込むと、流れるような動きで彼等を切り伏せ、道を切り開いていく。

 僕も背後からの攻撃に対応しながら、彼が切り開いた道を進んでいく。


 グラ達が一度は通った道ではあるのだが……。それでもこれだけの人数が未だに潜んでいるというのは想定外だ。

 これはトキが率いている『退路を確保するチーム』が苦労するはずだと感じる。僕は彼の渋い表情を思い出した。


「結構多いね」

「これでもかなり処理した後なんですが……。隠れていたのかどこからか湧いてくるのか……キリが無くて……」

「ふむ……」


 当初の想定より、戦闘員の数が遥かに多い。この支部が襲撃の対象になると、麒麟側にバレていた可能性が考えられる。

 プレイヤーの数こそ少ないようだが、自爆する戦闘員の数が多いとなると、逆に僕達をこの場におびき出してダメージを与えようとしている可能性も考えられる。

 

「撤退……。可能なら直ぐにでもすべきかもしれない……」


 僕は戦いながら思考する。

 とはいえ、敵は銃を所持しているので撃たれる前に倒す必要がある。そのため、あまり油断はできない。

 だが、それでも状況を整理して考えたほうが良いと感じていた。


「走りながらですみませんが、状況を説明します。現在この建物の4階で、グラ兄達がSランクプレイヤー達と戦闘しています。Sランクプレイヤー達はこの建物に集まって、待ち伏せをしている状況でした」

「なっ……」


 僕は思わず声を漏らした。

 Sランクプレイヤーがこの拠点に複数固まっているなんて……。完全に想定外だ。これは確実に何かある。


「人数は多いの?」

「はい。Sランクだけで20人以上はいたかと。Aランクも含めると50人規模なので……」


 狙い通り、SSランクプレイヤーがこの拠点に配置されていなかったのは良かった。だが、SランクとAランクのプレイヤーがそれ程多く、隠れるように1箇所に固まって配置されているのは予想外だ。

 これは完全に待ち伏せされていて、誘い込まれたのだと見て良いだろう。

 

 これだけのプレイヤーがこの支部に配置されているという情報は、東家(アズマケ)の情報収集力でも得られなかった事だ。麒麟側の底力というか、意地というか。諦めていないという強い意志を感じる。

 

 グラ達のいる所まで辿り着いた段階で、戦闘の状況を見て今後の方針を判断をしようと僕は考える。だがこの様子だと、Sランクプレイヤーを全員倒し切るまでは、撤退は厳しいと感じている。


 僕達は情報を共有しながら、上階を目指した。

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