12章-1.武力の必要性とは 2005.3.1
医療施設内の東鬼の部屋を出た僕達は、ノリさんの案内の元、避難地域の視察を行った。元店主達に話を聞きながら、主要施設を見て回る。
この避難地域の中心となる施設、いわゆる役場のような建物から始まり、供給された物資の管理と保管をする場、共同で使用する温浴施設や洗い場等を見て回った。
時間に余裕がある訳では無いので、比較的最近建てられた綺麗な施設しか見る事はできなかったが、それなりの生活を行うための施設が出来上がったなと感じた。少ない資源の中でも、効率的にうまくやっているという印象を受けた。
その中で、特にイレギュラーだと感じたのは、情報関連の施設だった。この避難地域自体を隠し通す必要があるため、情報は厳しく管理され制限されているようだ。
避難地域の外部とのやり取りには、必ず監視が付くなど徹底されている。電話やメール、手紙等、自由にやり取りする事はできない。その内容は全てチェックされ、東家が記憶し管理しているそうだ。
「ノリさん達の記憶能力って、この地域の人は知っているんですか?」
「いや、知らないよ。元店主達も知らないね。知っている人でも、東家が情報屋である事くらいしか知らないだろうね。まさか、1度聞いた事は全部記憶しているだなんて想像すらしないと思うよ」
「そうですか。それならまだ……」
それを聞いて僕は、ほんの少しだけ安心する。
もし記憶媒体さながらの正確な情報を持っているだなんて知られていれば、東家の人達が非常に危険だろうと思うからだ。
「大丈夫だよ。百鬼君。僕達はちゃんと自衛しているから。信頼する人にしかこの特性は話していないし、情報を使って上手く立ち回ることができるからね」
「はい……」
ノリさんは優しい口調でそう言う。だが、危険な事には変わりがないと僕は思う。
情報を制限されて不満を持つ人間は必ずいるはずだ。その人間の怒りの矛先が、情報を管理する東家の人間へ直接向くのは、容易く想像できる。
そもそもだが、本来情報屋等の武力を持たず頭脳で立ち回るような人間は、その特性上、表には出てこない。
もし敵に捕まれば、抵抗なんて出来ずに無力化されて自白剤を飲まされ、全ての情報を吐き出させられた後に殺される可能性が高いからだ。
故に、こうして表に出て積極的に活動する様子を見ると非常に心配になる。姿を見せる事すらリスクなのだから、現状は相当な無理をしている状態なのだと考えられる。
僕は最近まで東家の存在すら知らなかったのだから、彼等情報屋はセオリー通り、表には出てこない存在だったに違いない。
それがこの非常事態に対して、リスクを侵してでも協力をしてくれている。そういう状態なのではないかと僕は感じた。
この避難地域を見れば見るほど、東家の協力無しには成り立たない状況であると僕は思う。
勿論、元店主達の頑張りも相当だ。彼等の身を削るような努力で成り立つ部分も多い。あらゆる人達の頑張りが各所から見て取れた。
だからこそ。僕はより一層、不穏分子達が許せないという気持ちになる。他者の努力や献身にタダ乗りしながら、ただ不平不満をぶちまけるなんてあってはいけない。
何故それがまかり通るのかと、僕は疑問で仕方なかった。しかし、その理由は簡単だった。単純に武力の不足だ。
この地域の武力の不足は深刻だ。生活にこれだけの制限をかけるならば、統治に必要とされる武力は相当なものになる。
法の無い裏社会においては、彼等の欲求を抑圧するための武力が必要になるのだ。つまり、相当な武力がなければ管理できないレベルと言える。
武力で統治しなければ統制が取れないだなんて、正直僕は思いもしなかった。牛腸が、自分の縄張りにいる人間に対して、舐められない事にこだわっていた理由を、今になってはっきりと理解する。
少し力のある者が調子に乗ってやりたい放題するのを抑えるため、と。その程度の認識をしていた当時の僕を殴りたいほどだ。
愚かなのは、少し力のある荒くれ者だけじゃない。人間全てだったのだ。力の有無なんかじゃない。
力の無い人間だって欲求があり、不満を持つのだ。そこに自分が一方的に害されると恐怖する程の武力の存在がなければ、その不満や欲求は表に出てくると。それだけの事だった。
協調性や謙虚な心なんて期待できるはずもない。荒くれ者以外ならばそれなりのモラルがあるだろうと、何となく思っていた僕こそが愚かだったと言わざるを得ない。
武力で統治しない事の難しさを痛感する。今までよく維持できたなと、僕は改めて元店主達や東家の人達の事を尊敬した。
「さてと。僕達も働かないとね。グラ行ける?」
「勿論」
「ちゃんとゴチョウさん並みの悪い奴をやらないとね」
グラはクスクスと笑っている。僕が悪い人間を演じるのが面白いのだろう。
僕は伸びをして気持ちを切り替えると、狂気を纏う。そしてグラと共鳴した。
ここまで元店主達と東家の人達が頑張って成り立たせてきたのだ。それを愚か者共に崩されるなんてありえない。しっかりと分からせなければならない。
彼等自身の立ち位置をわきまえてもらわなければならない。元店主達、そして東家の人間のバックには僕達という武力がいつでも控えているのだと知らしめる必要があるのだ。
相変わらず僕達は損な役回りではあるが、これが適材適所と割り切るべきだろう。
僕達は、不穏分子達が集まる場。避難地域の中心エリア外、林の中に存在する目的の場所へと向かった。




