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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
11章 大切な人達
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11章-1.理想の未来とは 2005.1.15

「作戦会議、はじめようかな」


 共用室。僕達全員の顔を確認して、ノリさんは言った。


 年が明けて、2週間を過ぎた頃。僕達は共用室に集まっていた。そこには、僕とノリさん、そして覚醒組が揃っていた。

 僕とノリさんが向かい合ってソファーの中央に座り、僕の隣にグラ、そして空いたスペースに鬼兄弟、天鬼(アマキ)斗鬼(トキ)鬼神野(キジノ)鬼百合(キユリ)が座っている。

 

 今まではノリさんと僕の2人で作戦会議を行って、その後に僕からグラ達に戦闘に必要な事だけを伝えていたが、それではグラ達は僕と同じ視点とはならない。だから、作戦会議の段階から同席してもらう事にしたのだ。子供達も随分と大きくなった。難しい話も十分に理解できる。

 彼等の行動に不要な話も含まれるので、時間の無駄になるかもしれないが、それでもこうする方が良いと僕達は判断したのだった。


「まずはね、麒麟(キリン)の状況を僕から説明するね」


 ノリさんは、優しい口調でゆっくりと話し始める。子供達に伝えるためだろう。僕と2人の時とは雰囲気が全く異なる。

 そんな様子を見ると、何となくではあるのだが、ノリさんは子供が好きなのだろうなと思ってしまう。


 彼の話をまとめると、まず麒麟が所有する資金については、現状維持がギリギリ出来るほどにまで減っているという事だった。

 そうは言っても、まだギリギリでも維持できるほどの資金があるというのだ。多くのプレイヤーを維持できるというのはやはり強大であると言える。


 勝手に自滅するほど弱っているという状態ではなく、追加で戦力を雇ったり、新しい施設を建設するのは厳しい程度の認識が正しいだろう。

 欲を出さずにコスト削減をすれば、まだまだ活発に動けてしまうのだろうなと想像した。


 次に、現時点で麒麟が動かせるプレイヤーについては、昨年末に刀を持った男から得た情報と相違ないそうだ。

 SSランク16人、Sランク63人、Aランク89人。それ以下戦闘員1259人という数字から大きく変更はないらしい。

 

 そのプレイヤーの内、『麒麟が雇っている野良プレイヤー』の内訳で言うと、SSランク10人、Sランク48人、Aランク58人という事だった。

 それ以外は、完全に麒麟に所属しているので、いくら麒麟が財政難になっても離れて行かない戦力という事だ。僕達はこの野良プレイヤー以外の、『麒麟に所属するプレイヤー』を殲滅する必要があると言える。


 (アカツキ)達の勢力は、主にSSランクプレイヤーを狙った活動を行っているという事だった。

 確かに、麒麟に所属する6人のSSランクプレイヤー。ここを落とさなければ武力を削れたとは言い難い。だが、やはりこの6人を落とすのは非常に厳しいらしく、上手くいっていないそうだ。

 

 僕達は、この麒麟に所属するSSランクプレイヤーである6人については触れずに、それ以外の戦力を削る方向で動くのが良いとノリさんは言った。

 そこは完全にアカツキの勢力に任せるべきだと。そして、アカツキ達の活動が妨害されないように、僕達が立ち回るのが良さそうだという話だった。


「情報ありがとうございます。僕達は今までのスタンス通り、麒麟の資金源を徹底的に潰して回る。そして、アカツキさんの店に向かう武力を適宜処理するのが良さそうですね」

「そうだね。ただ、流石に麒麟もこれ以上資金源を潰されたくない様で、高ランクプレイヤーを各拠点に配置しているから。注意が必要だよ」

「分かりました」


 当然と言えば当然だ。資金源となる施設を多く潰された状態で、対策しない訳がない。

 今後はより一層危険が伴う。気を引き締めていかなければ。


百鬼(ナキリ)君達はね、自分たちの身を一番に考えて良いんだからね。無理だと思えば撤退してね」

「え?」

「ナキリ君が出来ると思った範囲でね」

「分かり……ました……」


 僕は困惑した。

 ノリさんがどうしてそう言ったのか、正直掴み切れなかった。

 

 僕は互いに利用し合おうという気持ちでいた。ノリさんも僕達を戦力として利用している。そういう関係性のはずなのに。

 それなのに、撤退しても良い、成し遂げられなくても良いと言うのだ。

 

「ナキリ」


 グラが呼ぶので、僕は隣に座るグラへ視線を向けた。


「考えすぎ」

「うっ……」

 

 グラは突然、僕の側頭部にげんこつをお見舞いする。僕は痛みで顔を歪めた。グラはそんな僕を見てクスクスと笑っている。

 一体なぜげんこつを喰らったのか分からない。だが、周囲を見てみれば皆グラと同じようにクスクスと笑っているのだ。

 どうやら僕の方がおかしいようだ。彼が言うように僕は考えすぎなのだろうか……。


「ノリさんは前から変わらないよ」

「どういう事?」

牛腸(ゴチョウ)さんみたいに、損得とか利害とか、メリットデメリットだけで動く人間じゃないって事」

「ふむ……」


 僕が再びノリさんを見ると、ノリさんは苦笑していた。


「ノリさんは、ナキリが動きやすいように、そう振舞ってただけ」

「え……」

「ははは。グラ君は手厳しいね」


 グラとノリさんの様子から、僕は何となく察した。

 ノリさんはきっと損得だとか利害関係だけで動くような人間ではないのだ。それは、雪子鬼(セズキ)を大事にする様子からでも十分読み取れる事だった。


 ノリさんの行動に含まれる思いやりや気遣いは、きっと僕にも向けられている。彼はたとえ僕達に戦力が無くても、僕達を大切にしてくれたのかもしれない。

 だが、僕自身が無償の施しや、理由のない信頼はあり得ないと決めつけている節がある。これは僕の生き方の部分で変えられない所ではあるのだが……。

 

 僕が一方的に頼るような関係性に不安を感じてしまうからこそ、ノリさんは今までギブアンドテイクの関係であるように振舞っていたのだろう。

 はっきりと僕達の戦力を()()()()()()と言ったのはそういう意図だったのだと悟った。

 勿論ノリさんが僕達の戦力を利用しているのは事実だ。だがこの関係性に含まれる物は、()()()()ではなかった。

 だが、その優しさや気遣いを僕に過剰に見せれば、僕を迷わせてしまうだろうと推測して、気を使ってくれたのだろう。

 

 全ては僕を安心させるためだったのだ。無償の施しを僕に受け取らせるためについた嘘だったのかもしれない。


「ナキリ君はそれで良いんだよ。その慎重さや警戒心があったからこそ、今まで生き延びる事が出来ているんだから。僕もゴチョウ君みたいに態度を徹底出来れば良かったんだけれど、やっぱり性分が出ちゃうね」


 ゴチョウのあのスタンスが演技とは思えないが。全く演技が入っていないとも言い切れないなと、今の僕ならそう思う。

 過酷な環境で生き抜いたからと言って、あそこまで合理主義に振り切れるだろうか。意識しなければ、あのレベルには到達できないのではないかと。そんな風に思う。


「話が逸れちゃったけれど。ナキリ君は、撤退するという選択肢もあるんだって認識して欲しいかな。予想外の事が起きた時は、直ぐに逃げるんだよ」


 僕は頷いた。


「あとはね。ここからは防御も大事なんだよ」

「防御……?」


 僕は首を傾げた。


「搾取されない事も大事になってくる。収入源の無くなった麒麟は恐らく、搾取できる先を血眼になって探すだろうからね」

「ふむ……」

「最も良く稼げる商材は『人間』だから。特にプレイヤーの死体は高値で取引できるし、生きていれば労働力にでも何にでもなるからね。麒麟に奪われないようにすることも大事になってくるんだよ」


 確かに、麒麟の資金源となる施設を潰しても、他から資金を得る事が出来てしまえば効果は半減してしまう。徹底的に資金源を断つようにするためにも、防御にも力を入れなければならないという事だ。

 特にこのシェルターにいる鬼人(キジン)達は、世間から見て非常に価値がある。幼い子や戦えない子は、絶対に隠しきらなくてはならない存在だ。


 僕はグラとは反対隣りに座るアマキを見た。アマキは今日も目立つ黄色のオーバーサイズのパーカーを着ている。フードを被らなければ、鬼人特有の黒い肌と長い犬歯が見える状態だ。僕の視線に気が付いて、アマキは僕を見上げてへなぁ~っと笑った。相変わらずの緩い雰囲気には、僕も気が抜けてしまう。

 

 やはり、覚醒組は外見的な特徴が顕著なだけに、鬼人だと一発で分かってしまうなと改めて思う。特に鬼兄弟は鬼人の特徴を隠さないスタンスなので、多くの人間が彼等は鬼人なのだと認識している事だろう。

 すでに僕が連れている子達は皆鬼人だとバレているかもしれない。そう考えれば、麒麟は資金調達の為に僕達を積極的に狙ってくる可能性もある。

 

「鬼人が狙われない世界になればいいのに……」


 僕はそんな願望を漏らしてしまった。

 長い歴史で成し得なかったことだ。ぽっと出の僕が出来るわけがない。

 だが、彼等が姿を隠さなくても堂々と生きていける社会であればいいのにと願わずにはいられない。狙われることも無く、人らしく生きられたらと思うのだ。


「そうだね。僕も皆がのびのびと生きられる世界になって欲しいかな。鮫龍(ミヅチ)君もそれを願っていたからね。それに彼は本気でそんな社会を実現させる気だったんだから。きっといつかできると僕は思うよ」

「え……」

「このシェルターだって、ミヅチ君の案なんだから。彼は鬼人達が安全に生きていけるようにと計画をずっとしていてね。僕がそれに後から乗っかったんだよ」

 

 まさかそんな経緯があったとは。僕は驚きを隠せない。


「皆が安全に生きていけるような社会にするためにも、東家(アズマケ)は全力で取り組むからさ。ナキリ君も一緒に踏ん張って欲しい」

「はい」


 まさか麒麟を殲滅した後の未来を思い描くことになるなんて思わなかった。だが、悪くない。

 ここにいる子供達が伸び伸びと生きられる社会にしたいと、理想が見えた事は良い事だ。僕達の人生は麒麟を倒して終わりなんかじゃない。その後も生きていくのだ。

 だからこそ、先のビジョンは明確にあった方が良い。そう思えた。

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