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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
10章 新しい拠点と立て直し
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10章-6.思わぬ収穫とは 2004.12.18

 僕と天鬼(アマキ)は連携しながら刀を持った男に切りかかる。男は軽々と僕達を蹴散らした。

 全く歯が立たない。本当に手合わせをしてもらっているといった状態になっていた。どんなに完璧に連携しようとも、一切攻撃が入らない。


「副店長さんは、体幹が弱いね~。もっと鍛えたほうが良いんじゃないの?」


 大きなお世話だ。


「ほら。力で押されたら直ぐに倒れる」

「くっ!!」


 僕は押し合いに負けてバランスを崩し、その隙を突かれて尻餅を付いた。


「力の入れ方と逃がし方が下手クソだからそうなる。頑張れ頑張れ~」


 男はニヤニヤと笑う。憎たらしくてたまらない。

 だが、男が言う事は正しい。常日頃グラにも指摘されている部分だ。僕はグッと怒りを堪え立ち上がる。


「そんで~、こっちの坊主は攻撃が軽いっ! ほらよっ!」

「うわぁああああ!!」


 アマキは攻撃を簡単に受け止められた後、服を掴まれてポイっと投げられてしまった。


「体が小さいから体重が無くて不利ではあるが、それにしたって軽すぎる。もっと重力とか、加速度とか、上手く使えって」


 アマキも悔しいのだろう。男をキッと睨んで、再び向かって行く。僕も負けてはいられない。汗を拭い、再び男へと立ち向かう。


 僕は戦いながらも、皆と感覚を共有し状況確認を行う。敵は概ね片付いて、手の空いている子は僕達の戦いを建物陰から見物している。

 グラ達の方も、1人は処理済み。残りの1人と戦っている。こちらも問題なく片付きそうでほっとする。


「おぉ? そろそろ片付くな! 流石鬼人(キジン)集団だ〜! この規模をこの短時間で! しかも全員無傷ときた。噂通り、凶悪だね〜」

「そうだね。僕達は凶悪だよ。だから――」

「ん?」


 僕はアマキと同時に攻撃を繰り出し、男に刀を使わせる。そして男の動きを止めた。


 その直後。


「おっさん。俺とも遊んで」

「んなっ!?」


 僕とアマキで男の動きを止めた瞬間、突如グラが現れ男の背後をとっていた。


「いや、お前は無理っ!」

「そう?」


 グラは弾むような口調で言うと、男に蹴りを繰り出す。男はその蹴りを空いた左手で受け止めながらも物凄い勢いで吹き飛んでいった。

 僕は吹き飛ばされた男を目で追う。地面を派手に転がりながらもしっかりと受身をとっているあたり、やはり只者では無い。あの勢いで蹴られたのに、怪我もしていないようだ。


「クソっ! やってくれたなぁ!! って……は?」


 男はすぐさま立ち上がろうとした。しかし、目の前に立ちはだかる鬼兄弟を目にして固まっていた。


「おっさん。俺等とも遊んで欲しいっす!」

「全力でいいっすか?」


 鬼兄弟も楽しそうだ。僕のいる位置からでは彼等の背中しか見えないが、きっといつものようにニコニコしながら話しているのだろう。


「君達も……。ちょっと無理……かな〜」


 男は苦笑いしている。


「グラ。捕まえちゃって」

「分かった」


 僕はグラに男の捕獲をお願いした。


 ***


「さてと。じゃぁ、知ってる事全部教えて」

「おい! 約束と違うだろ! ふざけんな!」


 男はギャーギャーと騒ぐ。グラが拘束しているので逃げられないと分かっているのだろう。無駄に暴れる事はしないようだ。


「スパイしてたなんて言うからさ。美味しい情報を沢山持ってますと、言っているようなものじゃないか」

「くっ……」


 男は明らかにしくじったというような顔をしている。


「僕は鬼じゃないから。洗いざらい教えてくれたら無傷で解放するつもりさ」

「お前なぁ……。はぁ……。あー。もういい。分かった分かった。降参だ。で? 聞きたい事は?」

「ふむ……。ノリさん、この男に何を聞きましょうか?」


 僕は胸ポケットに仕舞っていた携帯の方へと声を掛ける。


『ははは。まさかここで僕の登場か。ナキリ君が通話を切り忘れているのかと思っていたら……』


 ノリさんは笑っている。

 そう、僕は敢えて通話を繋げたままにしていた。通話を切らずに胸ポケットに端末を仕舞っていたのだ。ノリさんも予想していなかったイレギュラーが起きたため、こちらの状況をリアルタイムで把握してもらった方が良いと考えたからだ。

 スピーカーモードにされているため、ノリさんの声は男にも十分に聞こえている。男はノリさんの声を聞いて、心底嫌そうな顔をしていた。


『やぁ。久しぶりだね。(マダラ)君。元気にしてたかな?』

「ノリスケ! またお前ッ!! 元気も糞もあるかっ! どうせこっちの状況知ってるくせに、白々しいにも程があるっ!!」

『はっはっは! 君はいつも通り元気そうで何よりだよ』


 男はノリさんの事を知っているようだ。だが相当会話したくなさそうである。関係性は不明だが、ノリさんの事を厄介な人物と認識していそうではある。


『君はなかなか捕まらないからね。やっと話す機会ができて僕は嬉しいよ』

「けっ!」

『じゃぁ早速。遠慮なく聞かせてもらうよ? 現在麒麟が動かせるプレイヤーの人数と内訳を教えてくれるかな』

「あー、はいはい。SSランク16人、Sランク63人、Aランク89人。それ以下戦闘員1259人」

『そのうち、そこにいるグラ君より強いプレイヤーは?』

「そうだな……。個人戦想定なら……3人はいるな。互角レベルが5人と、俺は見る」


 麒麟の戦力は減ったとはいえ、未だに多いなと感じる。組織自体が吸収合併を繰り返しているのだから、戦闘員が増えることもあるのだろう。


「まぁ、さっきの連携があるなら十分戦えるだろ」

『成程ね。優秀な戦闘員である君の見解は、とても価値があるから助かるよ』

「はいはい。それはそれは良かったな〜」


 男は不貞腐れたように言う。

 

 確かに、それなりに戦える人間でなければ、相手の力量は分からない。僕も格上の人間の場合は強さを測ることが出来ないのだ。その辺はグラやアマキ頼りである。

 故に、この男程の実力者が判断した情報は非常に価値があると言えるだろう。


「もういいか?」

『ん? まだダメだよ。他にも聞きたいことがあるからね』

「チッ……」

『麒麟は沢山の人間をかき集めてるけどさ、行先は分かるかな?』

「あー。捕虜達か〜。あれは酷い。麒麟側は適当な管理しかしていないから、ぐちゃぐちゃだ。資金不足を補うために雑に捕まえて売っている印象だね〜」


 男は苦笑しながら言う。本当に呆れるほど雑な環境なのだろうと察する。


「成人男性は労働力、プレイヤーはバラして売る。女性はそのまま売れると。こんな社会だ。ストレスが溜まった人間は沢山いるから、女性は買い手だらけなんだろ。いやむしろ、内部のプレイヤー達の不満を解消するために宛てがわれている方が多いかもな。んで、子供は人体実験の検体として研究所行き。ざっくりこんなところだね〜」


 なかなかに酷い状況だ。麒麟に捕らえられた人間達がどこへ行ったのか等、記録も何も残っていないのだろう。この状況下では鬼楽(キラク)を探すのは難しそうだなと感じる。

 

『相当資金不足なんだね?』

「そりゃ、そうだろ〜。高ランクプレイヤーを動かすには金がいる。これだけ戦い続きなら不満が爆発するのは当然。麒麟の場合、信頼とか仲間意識で動くプレイヤーは殆どいないからね〜。お宅の鬼人集団とは、えらい違いだ。だからこそ、そこを狙うのがいいと。俺は思う」


 この男の話が本当ならば、麒麟の内部は思ったよりも脆弱かもしれない。現時点で麒麟が所持する武力は凄まじいが、それを生かしきれていない印象だ。それこそ、資金源を攻撃することの意味合いが強まる。

 わざわざ危険を犯してプレイヤーを倒さなくても、資金が無くなればプレイヤー達は動かなくなる可能性が高い。内部の反発を誘導して、内側から崩せそうだ。それが分かっただけでも大きな収穫だ。


 そもそも、深淵の摩天楼という組織は莫大な資金を有しているから脅威だったのだ。資金があるから、その資金で高ランクプレイヤーを必要な時に必要なだけ雇えるという形だ。

 つまり、現在麒麟の陣営である高ランクプレイヤーの多くは、一時的に金で雇われた野良プレイヤーである。

 終身雇用の専属プレイヤーでは無いのだ。

 

 もちろんBランク程度の戦闘員は多く所持しているので驚異ではあるが、SSランクプレイヤーのように、1人いるだけで戦況をひっくり返してしまうような凶悪な武力を常に多く持っている訳では無い。

 

 深淵の摩天楼自体が所持する武力――僕達で言う専属プレイヤーにあたる武力は、恐れるほどでは無いのだ。

 現状既に資金が枯渇しているというのだ。契約期間が過ぎたり、報酬が支払われなくなれば、プレイヤー達は麒麟を簡単に裏切るだろう。


『成程ね。ありがとう。じゃあお礼に僕からも君に情報をあげようね。タイムリーな話題だよ。ほんの1時間程前、君の息子はね、別組織の研究施設に売られた事が分かった』

「なっ!?」

『急いだ方がいい。すぐに潜入出来るように、君の行きつけのシーフードカレーの喫茶店に、案内人を置くから』

「クソっ! その情報、ノリスケは知ってたのかっ!?」

『まぁね。1時間前には知ってたよ。こっちの立場もあるんだ。そこは恨まないでよ』

「……」

『そもそも君が行方をくらますのが悪いんじゃないか』

「……」

『ほら。急ぎなさいな』


 僕はグラに合図をし、男の拘束を解いた。その瞬間、男は一瞬にして姿を消してしまった。

 どうやら男が言っていた、8歳になる息子を探しているというのは本当の話だったようだ。


『ナキリ君もお疲れ様。敵は全部倒しきったのかな?』

「はい。殲滅は完了しました」

『分かった。気を付けて帰っておいでね』


 僕は通話を切りポケットに携帯電話を仕舞った。思わぬ収穫だった。ノリさんの情報を疑っていたわけではないが、資金源となる拠点を潰す事で、明確に麒麟にダメージが与えられるのだと思うと、手ごたえを感じる。この調子で進めていければいいなと思う。


「グラ、周囲に敵の見張りはいる?」

「いない。全部処理済み」

「ありがと。じゃぁ帰ろうか」


 僕達は避難シェルターへと戻って行った。

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