7章-5.報復とは 2001.1.12
『報復』。それは僕達が生きる社会では非常に重要な行いだ。
やられたらやり返すは基本中の基本だ。やられっぱなしというのは、弱さを外部に曝け出す事になり、周囲から侮られる。
または、弱っていると見做され狙われる原因となる。
故に、『報復』を行い、店の力が健在である事を示すのだ。
***
現在僕は、いや、僕達は。『報復』のために、地方までやって来ていた。
僕は8人乗りの大型の車を運転している。助手席にはグラが座り、2列目には鬼兄弟と天鬼。3列目には施設から買ってきた鬼人のプレイヤーの少年2人と少女1人だ。
昨日の夜、店主からこのメンバーで行ってこいと命令を受けた。相変わらず急な指示である。
当初鬼兄弟達は来る予定ではなかったのだが、何処から聞きつけたのか鮫龍から連絡があり、退屈しているという鬼兄弟を預けられてしまった。
鬼兄弟は戦力として申し分ないのでありがたい話ではあるのだが、ミヅチの意図が良く分からない。何か別の目的があるのかもしれないとは思う。
ただ、当の本人たちは、車内で楽しそうにはしゃいでいるので、遊びに来ているようなものなのだろう。
昨年度末の襲撃によって、施設から買ってきた鬼人の子達は皆、酷い怪我を負っていたのだが、異常な回復力を見せて現在は完全回復している。
グラの話によれば、鬼人の血が濃いと回復力も高いという話だった。鬼人というだけで、根本的に体の構造が異なるのだろうなと感じてしまった。
「百鬼。俺達はどう動けばいい?」
「そうだね。合図するまでは手を出さないで。たぶん皆殺しにすることにはなると思うけど、手順があるから」
「分かった」
「ただ、もしかするといきなり襲い掛かって来る人間もいるかもしれないから、その対応は頼むよ」
「それは殺していい?」
「勿論。向こうから殺しにかかって来るのであれば、その場で殺していいよ」
グラは僕の回答を聞いて、何かを考えているようだった。戦闘時の動きを考えているのかもしれない。
『報復』の対象は、3件の仲介の店と武力組織だ。この3件の店は、襲撃を行ったプレイヤーを集めた店である。武力組織からの発注を受けて、仕事を仲介したため『報復』の対象となる。
そして、武力組織は襲撃時、多くのSランクプレイヤー、及び氷織を襲ったSSランクレベルのプレイヤーを送りこんできた組織だ。
牛腸の店を襲撃した際に、多くのプレイヤーを失ったため戦力は半減し、今では武力組織ともいえない程の縮小具合ではあるのだが、まだ武力組織として生きている。
そのため、息の根を止めに来たのだ。完全に残党を狩るつもりである。
「先に店の方に行く予定さ。僕はそこでまず、店主と交渉を行う。襲撃時の損害に対しての賠償を相手に求めるけど、到底払える金額じゃないから。交渉は決裂するだろうね。そうしたら、店所属の人間はプレイヤーだけじゃなくて従業員も含めて、取りこぼしなく処理して欲しい。生き残りがいると面倒だからね」
どうせ交渉は成立しないのだが、やはり手順は大切である。いきなり襲い掛かったとなれば、店の評判が落ちる。
話の通じない武力だけの集団と見做されることは、あまり良い事ではない。理想は、『店側のルールを守れば悪いようにはされない』といった感じで周囲から認識されたいのだ。
この社会は、『力こそ正義』という考えが強いものの、信用で回っている部分もそれなりに大きい。故に大切にしたい部分である。
「もうすぐ着くけど、皆大丈夫?」
赤信号で停車した際に、僕は後部座席の方を振り返り問いかける。すると、皆楽しそうに大丈夫だと答えていた。遠足に行くかのような雰囲気に笑ってしまう。少しは緊張感を持ってもらいたいところではあるのだが。
ただ、個人的には、元気な彼等を見るのは悪い気はしない。鬼人同士は惹かれ合う部分もあるらしいのだから、こうして鬼人だけで集まって一緒に行動できるのは楽しいのかもしれない。
グラ以外の鬼人の子供達についてだが、皆10歳以下である。非常に若い、というより、本当に幼い子供なのだ。
改めてそう考えると、そんな幼い子供を戦力として連れて行くのは正直気が引けてくる。僕に良心があるかと聞かれると微妙なのだが、それでも流石にどうかと思う程に彼等は幼い。
だが、彼らは既に立派なプレイヤーだ。グラが毎日のように手合わせをして育てている上、鬼人というポテンシャルによって、大人顔負けの実力である。
戦闘力で見れば、今回のこのメンバーは凄まじい。ただ、内面は本当にまだまだ子供である。物事の分別がついているのかすら怪しい。
幸い僕の言う事を聞いてくれるから良いものの、しっかり見ていないと直ぐに別の物に気を取られて夢中になっていたりする。子供らしい部分は微笑ましくもあるが、彼等が直面する場面は生温い場所じゃない。
だからこそ、僕とグラで気を付けていかなければならない部分だろう。
大通りから脇道に逸れて。僕は、細い道を進んでいく。道沿いの建物は低層ではあるのだが、薄暗い。
狭い道沿いに建物が密集しているため、全体的に暗い影を落としているのだ。また、道は真っ直ぐではない。曲がりくねっている事で見通しが非常に悪い。
この大型の車を運転するには中々厳しい道である。
そんな地域をしばらく進み、僕は駐車場に車を止めた。この駐車場から、報復対象の店までは徒歩5分程度だ。この地域は既に裏社会のエリアであるため、一般人の気配は無く、どことなく気味の悪い雰囲気の場所だった。
僕がエンジンを切って車から降りると、先に降りて車の傍で待機していた子供達は、既に真剣な顔つきになっていた。
周囲の雰囲気を感じ取ったのだろう。先ほどまでの遠足の様な空気感は無く、しっかりと切替が出来ている事に僕はほっとする。
それぞれが武器を手にし、直ぐに戦える状態になっていた。
「俺と鬼兄弟はナキリの傍。アマキ達は一定の距離で隠密」
グラが子供達に配置の指示を出す。その瞬間、アマキと鬼人の子供3人は消えてしまった。近くの物陰に隠れて気配を消しているのだろう。僕には全く所在が分からなくなってしまった。
「2人は俺と一緒にナキリの護衛。とにかく目立てばいいから」
「了解っす!」
「分かったっす!」
赤鬼と青鬼は元気に返事をする。グラはそんな2人の頭を撫でていた。
僕が静かに歩き始めると、グラが直ぐ隣を歩き、背後に鬼兄弟がぴったりと付いた。
鬼兄弟は真剣な様子で周囲をきょろきょろと見回しながら歩く。時折、遠くの方を睨んだり顔をしかめている様子を見ると、周囲には何かあるのだろうと思う。
当然彼等が見ている先を見ても、僕の視界には何も映らない。
僕には感じる事の出来ない気配などを、彼等は敏感に察知しているのだろう。
何となくひりつく空気感のようなものは感じるので、囲まれて敵意を向けられているのだろうと僕は推測する。
いつか、暁の店にグラと行った時の事を思い出す。あの時と似たような感覚だった。
緊張感を持ったまま歩き続けると、ついに報復対象の店の前までたどり着いた。
2階建ての箱型の建物だ。灰色の外壁で、簡素な見た目をしていた。周囲の建物も、基本2階建てであり、古びた木造や鉄骨の建物が密集して建っている。
周囲を見回してみても目印になるような建物や看板は無く、ひたすら似たような建物ばかりが道沿いに続いていた。
僕は念の為、対象の店の情報を確認する。そして、間違いがないと判断した。




