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【完結】ナキリの店  作者: ゆこさん
7章 店の整理
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7章-4.褒美とは 2001.1.4

 さて。このまま解体ショーを終わらせる訳にはいかない。集まった観客とバイヤー達を満足させなければならない。

 この後はどうやって進めようかと僕は考える。ある程度プランは用意しているが、持っていき方に悩む。


 と、僕がそんな事を考えていると、近づいてくる気配を感じ、僕は顔を上げた。

 するとそこには、施設で買ってきた雑用係の少年の内の1人が立っていた。

 リーダー格の子ではない方――何となく面白そうだと思って選んだ方の子だった。


 正直その子の事は忘れていた。今の今まで特に何も目立ったことは無く、可もなく不可もなくといった様子だったのだ。

 もともとは、雪子鬼(セズキ)東鬼(シノギ)に対して刺激になればと、良い素材になることを期待して選んで買ったという経緯だったが。


 僕はその少年を改めて見る。年齢は10歳でセズキと同い年だ。シノギよりは2つ上ではあるので、シノギよりも体は一回り大きい。

 髪は肩までの長さで、こげ茶色のくせ毛だ。それを低い位置で一つに縛っている。

 顔つきに特徴はないが、穏やかな印象を受ける人相だ。好戦的というより平和を望みそうに見える。

 身長は140センチメートルくらいで年相応だろうか。


「シノギ君はぬるいね」

「え?」

「証明はこうやるんだよ」


 彼はそう言うと、困惑したシノギの横を颯爽と歩いて過ぎ去り、店主の元へと行ってしまった。そして、数枚の資料を店主へと渡していた。


「こちらが裏切者の証拠です」


 彼から資料を受け取った店主は、黙々と内容に目を通していた。

 店主は読み終わったものから僕の方へと差し出してくるため、僕はそれらを受け取り目を通していく。


「ほぅ」


 僕はその資料を見て、思わず声を漏らした。それほどまでによく出来た報告書だったのだ。

 まるで僕自身が作成したかのような出来に笑ってしまう。過去に僕が作成した物を参考にしたのだろう。フォーマットが殆ど同じだ。


「いいじゃねぇか。お前」

「ありがとうございます」


 店主はご満悦だ。新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりに、ニタニタと笑っている。


「ナキリ。裏切者を処分しろ」

「分かりました」


 既に、裏切者――施設で買ったリーダー格の少年をグラが拘束していた。捕獲された少年はバタバタと暴れていたが、グラの拘束を解けるはずもない。磔の台まで連れてこられたところで、僕はベルトをきつく締め、彼をしっかりと台座に固定した。


「僕じゃない!」


 少年は泣き叫ぶように言うが、覆しようのない証拠が既に揃っている。セズキの時のようにじっくりと時間を取るつもりは一切ない。


「悪いけど。巻きでいくね。時間が押してるから」

「なっ!?」


 命乞いをすれば延命できると思っていたのだろう。そっけない僕の発言に少年は驚き困惑したようだった。

 残念ながら、既に観客とバイヤー達を随分と待たせているのだ。この少年の後にも、処分対象が控えているので長引かせるわけにはいかない。


「雑用係の彼がね、立派な証拠をみせてくれたよ。この画像は君だね?」

「し、知らない! 僕じゃない!」


 僕は資料の中に有った1枚の画像を見せる。この画像もまた、ホームビデオで撮影されたものの切り抜き画像だ。

 写されていたのは、バックヤード内、この少年が通信端末をセズキの持ち物に隠すところだった。また、画面には壁掛けのデジタル時計とカレンダーも写されていた。


「他にもね、こんなデータがある。君が処理した報告書の改竄の履歴だね。通常、プレイヤー側と結託して口裏を合わせられたら、改竄を明らかにするのは難しいんだけれど。この資料は凄い。一目瞭然だ。それに、特定の専属プレイヤーに対して随分と甘いチェックなのも良く分かる。あと、襲撃の日、その特定のプレイヤーに対して、終日かかる遠距離の仕事を与えたのも君だったんだね」

「……」

「ちなみにだけど、この遠距離の仕事。架空だよね」

「ひっ……」

「店主の許可なく、仕事を仕入れてプレイヤーに割り振るなんて。大胆だね。それだけでもアウトさ」

「……」

「そういう事だから。裏切者の君には死んでもらうよ」


 僕はテーブルに並べられた解体道具から、刀身が異様に長いメス状の刃物を手に取る。

 

「準備は良いな?」

「はい」


 店主の確認に僕が答えると、店主はバイヤー達と売値の駆け引きを始めた。


 思いもよらない収穫に、僕も店主と同様にニヤけそうになる。裏切者の明確な証拠を突きつけた彼は本当に面白い。証拠を出すタイミングすら適格だ。シノギが出来なかったことを、自分は出来るのだとアピールする事もできており、優秀さが際立った。

 また、こうなる事を彼だけは予測できていたという事も分かる。事前に証拠を用意し、この場にその証拠を持ってきているのだから、僕と店主の筋書きすら理解していそうだ。

 もしかすると彼は、シノギを喰ってしまうかもしれない。それはそれで悪くない。このまましばらくは様子をみるのも良さそうだ。


「ナキリ。やれ」


 どうやら落札されたようだ。僕は磔にされた少年の腹を一直線に切り裂いた。


***


 解体ショーが終わり、その片付けが終わった所で、僕と店主、そして雑用係の3人が店に残っていた。僕と店主はテーブル席に向かい合って座っており、その近くに3人が立っている状態だ。


 本日の解体ショーでは、裏切者の雑用係の少年の他、プレイヤーの裏切者3名も同時に処分した。これで内部の裏切者は全て排除した認識だ。

 今後は、襲撃を企てた組織への『報復』という業務がある。専属プレイヤー達が回復して店が完全に復活した後、行う方針だ。


「今日のお前等の取り分だ」


 店主は、雑用係達それぞれに封筒を手渡す。この解体ショーで得られる金は、彼等にとっては貴重な収入源になる。

 ショーの出来栄えによって売り上げが大きく変わってくるのだが、彼等に渡された封筒の厚みを見る限り、本日の売り上げは相当良さそうだった。


「店長。私の取り分が多すぎるかと……」


 中身を確認したセズキが困惑した様子で店主へと尋ねた。


「あぁ。観客の数人がお前を気に入ったらしい。お小遣いを渡したいと言っていた。貰っておけ」

「わ、分かりました……」


 何だか危険な香りがする。今回の解体ショーで、セズキを目立たせすぎてしまったかもしれない。

 雑用係という立場上、目立つ事は避けるべき所だったのに、変に噂が広まってしまう可能性がある。

 今後は周囲の様子に気を配った方が良いだろう。


「それからお前。特別に褒美をやる。何か欲しい物か要望はあるか?」


 店主はニタリと笑い、裏切者の証拠を示した少年に問う。

 彼は一体何を望むだろうか。何を望むのかすら試されているという事に彼自身も勘付いているだろう。


「そうですね。可能であれば『名前』が欲しいです」

「成程な。良い選択だ。ナキリ付けてやれ」


 何故僕が?

 店主が付けてやればいいと思うのだが。


「ナキリさん、是非。僕にも名前をお願いします。彼等のように『鬼』が付く名が欲しいです」

「鬼……ね……」


 彼は僕に微笑みかける。非常に柔らかい笑みだ。一見すると心優しい少年に見える程の雰囲気を醸し出している。

 きっと彼の武器はこの柔らかい雰囲気だろう。全く悪意が感じられないため、他者の警戒心を解くことに長けていると考えられる。

 恐らく、この『人が良さそうに見える』という武器を使って、今回裏切者の懐に入り込んで証拠を集めたのだろうと察した。


鬼楽(キラク)はどう? 鬼に、楽しいでキラク」

「はい! ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 少年、改めキラクは、微笑み頷いていた。


「戸締り頼んだぞ」

「分かりました」


 店主は僕にそう指示を出すと、立ち上がり、さっさと店から出ていった。

 僕は座ったまま、テーブルの前に立つ雑用係の3人を見る。すっかり元気を無くしてしまったシノギに、まだ恐怖が抜けきっていないセズキ。そして、ニコニコと笑顔を絶やさず機嫌が良さそうなキラク。

 今日の解体ショーでのことは、それぞれに今後大きな影響を与えるだろう。


「早速だけど、キラク。今回の裏切者調査の為の費用については、ちゃんと支給するから。一覧にして請求書あげといて貰える?」

「え? いいんですか?」

「当然だよ。今後も期待しているから」

「分かりました!」


 キラクは柔らかい笑みを浮かべて答える。

 彼には彼独自の調査ルートが既に出来上がっている事が今回の結果から分かる。今後もその能力を伸ばして欲しいところだ。


「他何か、伝達事項とかある?」

「あ、あの!」


 セズキが何か言いたそうだ。だが、言いにくい事なのか、口ごもっている。また、少し緊張しているようにも見える。

 

「どうしたの?」

「その……。ナキリさん。私達にチャンスを頂きありがとうございました。私の勘違いでなければですが……」

「ふむ」

「ちゃんと考えてみれば、裏切者の証拠が私の持ち物から出た時点で、解体ショーなんて場を設けないで、直ぐに殺処分が妥当だと思うんです。弁解の機会なんて与えられるわけがない。きっと店長はその考えのはず……。過去の記録を見ましたが、今までであれば、こんな風に雑用係の人間に対して時間を与えるなんて在り得ないと……」

「そうだね。今回の事は僕から店主に提案した事だ」

「っ!!」


 セズキは店に残してある過去の記録を全て見たのだろう。僕が作成した報告書を見れば、これまでどのように裏切者が処分されてきたのか、また、店主の考えや店の方針も分かるだろう。

 その記録を踏まえて考えた結果、今回の出来事はイレギュラーであると判断したのだと推測できる。


 案外早くバレてしまった。彼女は解放されて以降ずっと恐怖で震えていたのかと思えば、しっかりと頭は動かしていたようである。

 

「僕の望みは、君達の成長だよ。分かっているとは思うけれど、次は無いからね」

「はい」


 他に彼等から報告はなさそうだ。

 僕はようやく一息つく。想定外の事態だらけではあったが、何とか一連の計画に区切りがついたと感じた。

 こうして、店の裏切者処分のための、内容の濃い解体ショーは幕を閉じたのだった。

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