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ナキリの店  作者: ゆこさん
3章 新しい仲間
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3章-2.素材とは 2000.8.10

 暫くその部屋で待っていると、施設の人間が戻って来た。そして、僕達の前にそれぞれ未開封のお茶のペットボトルを置くと、机に分厚いファイルを何冊か並べた。

 店主は早速ファイルを手に取り確認していた。僕も別のファイルを手にする。するとそこには、人間の詳細なデータがまとめられていた。恐らくカタログの様なものなのだろう。身体的な特徴だけではなく、思考の傾向や頭脳の良し悪しまで記載されている。


百鬼(ナキリ)。雑用係として何人か連れて行くつもりだから、気になる人間に付箋を貼れ」

「分かりました」


 既に店主は、数枚の付箋をぽつぽつと貼っていた。一体どんな人間を選べばいいのだろうかと、僕はデータを見ながら考える。


「店のチビ達を基準に考えろ。あいつらには何が足りない? どうすればその足りない物が育つのか。とは言っても、素材のつもりが素体になる可能性だってある。入れ替えたって構わない」


 本当に子供達を育てるための、消費素材を選びに来ている感覚になってくる。生きた人間を消費素材として扱うのだ、当然気分の良い物ではない。

 だが、必要な事であると僕は既に考えてしまっていた。店主の言う通りその視点で人間を選んでいく。

 

 僕は改めて、彼らに足りない物は何だろうかと考える。やはり、狡猾さと残酷さだろうか。

 この社会を生き抜く上では必要なものだ。正確に知っていなければならないものだ。人間の醜さや薄汚い本性を知らなければ、プレイヤー達に仕事を与えて統制を取るなんてことは到底できやしない。だから、それを文字通り()()()()()教えてくれそうな人間が必要だ。

 

 暫く黙々と作業を行い、僕達は一通り全ての資料に目を通した。


「これで頼む」

「畏まりました。準備してきます。その間はプレイヤーの方をみますか?」

「そうだな。そうさせてもらう」


 店主が立ち上がったので、僕も立ち上がる。どうやら移動するようだ。施設の人間とは部屋を出たところで別れ、僕とグラは店主に続いて施設の奥へと進んで行った。


***


「グラ。欲しい奴を選べ。3人」


 店主は唐突にグラに指示をした。

 グラはぐるりと周囲を見渡すと、迷うことなく歩いて行ってしまった。

 

 僕達が入った部屋は非常に大きな部屋だった。スポーツジムの様な場所だ。そこには10歳前後の子供たち30人程度がそれぞれ自由に過ごしていた。

 室内には、体を鍛える器具類の他、娯楽設備等が設置されており、整った環境であるという印象だった。

 

 僕達が部屋に入って来た事で、子供達から注目されてしまった。皆それまでやっていた作業等を止めて、僕達の方をじっと見ていた。

 恐らく、この部屋にいる子供達はプレイヤーの卵なのだろう。僕にはその差は一切分からない。だが、グラにはきっと全く別の世界が見えているのだろうなと思う。


 グラは直ぐに3人の子供を連れて戻って来た。少年2人と少女1人だ。


「このチビ達でいいのか?」


 グラは小さく頷いていた。一体どんな基準で選んだのかは分からない。グラも、(アカツキ)の店から連れて来た15番の少年を基準に考えて選んだのかもしれないが、その辺りは不明だ。

 大部屋から出ると、先ほどまでいた施設の人間が扉のすぐ外で待機していた。


「プレイヤーはこの3人を買う」

「畏まりました」

 

 どうやら準備が整ったらしい。

 先ほどまでいた部屋に、付箋を付けて選んだ子供達を集めてあるそうだ。


 施設の人間は、今選んだ3人の子供達を売るための契約準備も行うとのことで、彼等を連れて行く。そのため、僕達だけで先ほどまでいた部屋へと戻って行った。


***


 部屋に戻ると、室内には16人の子供達が集められていた。店主と僕でファイルの資料から選んだ人間だ。


「この中から2人買うつもりだ。端から1分程度で自己PRしていってくれ」


 店主が彼らに言う。すると彼らは、お互いに顔を見合わせながらも、直ぐに一列に並び端から発言をしていった。

 彼らは、自分が得意な事、出来る事を懸命に訴えていた。そこには必死さが滲み出ていた。どうにかして選ばれたいのだという意思が痛いほど伝わって来た。

 

 選ばれた所で、死ぬ確率が非常に高い。その現実を知っているからこそ、目の前の光景が僕には茶番にしか見えない。見続けるのは非常に気分が悪かった。

 だがそれでも、僕は選ばなければならない。僕は彼らの必死の自己PRを見届けた。


 PRの内容だけではない、話し方や仕草、他の人間が発言している間に取っている態度。一度に16人も見るのは難しい事ではあるが、僕は可能な限り見落としが無いようにと努めた。


 全員の発言が終わる頃には、施設の人間が室内に戻ってきていた。彼も、子供達のPRを興味深そうに聞いていた。

 僕は全員の発言の内容から考える。一体誰を選ぼうかと。正直能力は似たり寄ったりだった。まだ子供なのだから、今後いくらでも伸ばせる。やはり変えようが無いのは人間性だろうか。本質的な部分を探る必要がありそうだ。

 

「ナキリ。他に彼等に聞きたい事あれば、今、質問しろ」

「分かりました。それでは……」


 僕は彼等の様子を見る。彼等はどちらかと言うと、店主に注目しているようだった。こうして僕と店主が話している様子を見て、どちらの人間が上の立場であるのか、直ぐに理解したのだろう。

 見た目的にも、明らかに牛腸(ゴチョウ)が上に見えるだろうし、ゴチョウは濃い髭面の強面なのだから当然そちらに意識が向くとも思う。

 だが、舐められるのは違う。ここでの僕の言動は、未来での彼等との関係性にも影響するだろう。故に、慎重にいきたい。無難な質問は『最善』ではないと、僕はそう考えて口を開いた。

 

「他者PRしてもらってもいいかな? 誰か一人この中で他の誰かを推薦していってほしい。いなければいないでもいいから。出来る人は挙手して推薦する人を連れて前に出て」


 子供達が一斉に動揺したのが分かった。我ながら意地の悪い質問であると思う。


 彼等同士の詳しい関係性は分からないが、全く知らない間柄ではないというのは何となく様子を見ていれば分かる。

 仲の良い人間を推薦するのか、本当に優秀と思う人間を推薦するのか、はたまた自分に利益が出ると思われる人間を推薦しておくのか。彼等にとってはここが人生の岐路になるのだから、今頃脳みそをフル回転させて考えていることだろう。


 そしてしばらくすると、ちらほらと手が上がり始め、他者PRが始まった。


***


 店主と僕は机に並べられた子供達の書類を見比べながら、話し合いを行う。子供達には一度退出してもらった。向かいの席に座る施設の人間は興味深そうに僕達を観察しているようだった。

 自己PRと他者PRを聞いて、ある程度は絞り込みが出来ていた。5人まで絞った所で店主と僕は互いに意見を言いながら詰めていく。

 

「この狡猾なリーダーポジションの奴は決まりでいいか?」

「はい。複数人から他者PRを受けているのを見ると、ここでこの子へ媚を売っておかないと後々酷い目に合うと周囲から思われているのだと考えられます」

「そうだな。で、もう一人はどうするか。この狡猾なリーダーがPRした奴か、全く別の奴を入れるか……」

 

 店主が迷っているように、僕も迷っていた。リーダーポジションの子が他者PRで紹介した子、所謂子分ポジションの子をセットで連れ帰るのは良い手法だとは思う。

 彼等が結託するのは明らかで、存分に役割を果たしてくれそうだ。だが一方で他の残した候補の子を入れるのも有りだと考えている。

 

「彼等の必死さに驚いたか?」


 僕は頷いた。店主はそんな僕を見てニタリと笑っている。


「最初に言ったようにここは人間の殺処分場だ。概ね17歳前後になると彼らは出荷だ。大抵バラされて売られる。その前に買われようと必死になるわけだ。また、ここでの生活も生易しくはない。労働しなければ滞在も許されない。その場で廃棄だ。また、一度ここに入ったら、死ぬか買われるか以外で外にでる方法は無い」

「それで、殺処分場ですか」


 段々とこの施設の仕組みが分かってきた。とはいえ、利益が出ているのかは甚だ疑問だ。これだけの規模の施設を運営となれば、維持費は相当掛かるはずだ。人間をバラして売っても元が取れるようには思えない。


「この施設も、最初こそ赤字経営だったらしいが、今じゃ軌道に乗ってるって話だ。バックに大規模組織がついている上、周辺地域の治安を良くしているっていうんで、寄付金も多いらしい。安定的に良質な人間を金で入手できる環境は、この社会では悪くないって事なんだろう。ここで買えるのは、持病もなく能力値がはっきりした人間だからな。その辺で拾う博打よりずっといい。ここで金を払ってでも買う方が買う側も利益が見込めるんだろう。事実俺も、知り合いから調達するよりはこの施設から買った方が良質だと感じている」


 店主は僕が疑問に思いそうな事を、先回りするように話す。おそらくだが、今日のこの施設への訪問も、僕に知識や経験を与えるためなのだろうと察する。

 今まで店の内側の世界、そこから見える所までしか意識できていなかった。今後は店の外の世界まで視野を広げろと言いたいのだろう。


「大規模組織って……」

「あぁ。聞いたことはあるだろ。『深淵の摩天楼』なんて呼ばれているあれだ。あの大都会の高層ビルにいる奴等だ。何処よりも高い位置にいながらも、何処よりも闇が深い場所だとよ」


 その口ぶりから、店主はその大規模組織の事をあまり良くは思っていないようにみえる。警戒すべき対象なのだろうと察した。

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