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ナキリの店  作者: ゆこさん
14章 後始末
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14章-7.迷いとは 2005.4.12

 会議が終わって。会議室に残った僕は静かに考えていた。

 元店主達に最初に言われた事だ。この地を僕達が守る案について。


 無理だと思ったから断った。

 だが、その選択は本当に正しかったのかと。

 

 分からない。

 僕達が守らなかった事で、多くの命があっという間に消えていくかもしれない。

 元店主達が懸命に守ってきたものが失われ、全てが水の泡になるかもしれない。


「分からない……」


 僕は回らなくなってきた脳味噌を少しでも休ませるために、天井を仰ぎ大きく息を吐いた。


 元店主達は今、生き延びた住民たちへ今後の方針を伝えているところだ。恐らくとんでもなく反発されている事だろう。

 僕はその場に行かない方が良いと言われて、この会議室にグラと2人で残っていた。僕自身が身を削って彼等を助ける案を持っていないのだから、その場にいるべきでは無いと。それに、僕がその場にいれば住民達は文句を言いづらくなるからと。


 確かにその通りだと思い、僕はこの場に残った。きっと彼等から文句や不満や問題点を吐き出させる場でもあるのだ。だから、武力による抑制は逆に障害になる。

 元店主達は、彼等住民達の思考傾向を本当に良く把握していると感じる。きっと長年に渡って、弱き者達に寄り添い共存してきたからなのだと思う。

 僕には全く想像もできなかった事だ。素直に凄いと思えた。


 話し合いで決めた今後の方針は単純明快だった。

 元店主達がそれぞれ住民を引き取って散り散りになる形だ。それぞれにスタンスやルールがあり、生き延びた住民達自身がどの店主に付いて行くかを決めるのだ。

 勿論それぞれに許容できる範囲があるため、人数制限がある。そこは早い者勝ちで選ぶ方針とした。覚悟ができない者は優先度を下げるという意味も込められている。


 また、この避難地域に残るという選択肢も敢えて残した。ただし、この場に残る元店主や東家の人間はいない。つまりリーダーが不在となるのだ。残った人達でどうにかするのであれば、この地を好きにしていいという形だ。

 もちろん、どの元店主達にも付いて行かずに、かつ、この地からも離れるという選択も可能だ。


 結果はどうなるだろうか。あまり想像が出来ない。


「グラはどう思う」

「分かんない」

「だよね」


 僕の隣に座るグラはぐったりと背もたれに寄り掛かりながら答える。彼も相当疲労が溜まっているはずだ。


「俺もここに常駐は無理だと思う。天鬼(アマキ)なんて、絶対無理。多分暴れる」

「ははは。確かに。こんな所にいたら、皆の笑顔は見られなくなりそうだね」

「うん」


 グラの言う通りだ。この場所にいたら、彼等にとんでもない負担を強いることになる。ここにいるだけでも相当なストレスだろう。

 彼らには安心して休息できる場が必要なのだ。身を寄せあってじっとしている時間も必要だ。それを提供できない所で常駐なんて出来やしない。


「だから、百鬼(ナキリ)の判断は正しいと思う」

「ありがと。心強いよ」


 僕は鬱金(ウコン)が言っていた言葉を思い出す。プレイヤー達は都合のいい道具ではなく、一人一人意志を持った人間なのだと。

 僕達は仲間なのだ。一方的にその戦力を利用する関係性じゃない。その匙加減や関係性を見誤れば、崩壊してしまうだろう。


 ましてや僕と鬼人(キジン)の子達は対等な関係なのだ。グラがよく表現する『相棒』という関係性だ。

 肩を並べて共に歩む存在なのだ。だから、彼等の為にならない仕事の依頼や、彼等の意にそぐわない命令をするなんてありえないのだ。

 彼等が納得出来ない事はやらせてはいけない。

 せめて納得を得られるように説明をして、了解を得てからだ。


 改めて思うが、僕達の関係性は、専属プレイヤーと店主という関係性とも全く異なる。これは鬼人達とのベストな関係性を求めた結果だ。

 やりにくい部分や難しい部分もあるが、非常に強い関係性だと思う。相棒だからこそ、密度の濃い連携や意思疎通ができる。

 僕は彼等との関係性をとても大切にしていて、かけがえのないものだと感じている。今後も変わらずにいたいと感じる。


 だからこそ、彼等の事情や気持ちを蔑ろにした指示なんて出せないのだ。元店主達からの頼みをキッパリ断ったのは間違いではなかったと思う。


 とは言えだ。僕は『迷い』を完全に捨てきれてはいなかった。

 これで良かったのだと胸を張って言えるはずもない。優先しなかったもの、選ばなかったもの達の未来を何も考えないなんて事も出来ない。

 感じるものが何も無い訳では無いのだ。難しいものだなと改めて感じる。


「俺も一緒に背負う。会議に出てたから、俺も同じ」

「うん」


 本当に心強い存在だ。1人ではないのだと思えるだけで、僕は前に進めると思えてしまう。


「俺だけじゃない。皆ナキリの隣を歩いているから」

「そうだね」


 僕は、僕自身、それと僕の隣を歩き続けてくれる存在達のために。そのために『最善』を選び続けようと、改めて思うのだった。


***


 僕達は子供達が待機しているという、中央役場とは別の建物の部屋へと向かう。彼等が少しでも休めるように、静かな部屋をノリさんに用意してもらっていた。

 知らない人間との交流、さらには鬼人以外となると、彼等は疲弊してしまう。避難地域に来てからは苦手な事を沢山やらせてしまったから、彼等の状態が気がかりだ。ショックを受けるような事も多々あったのだから、精神的に参っているかもしれない。

 僕はその待機部屋の扉を開いて室内へと踏み入れた。


「あれ……?」


 しかしながら、僕は室内の予想外の状態に声を漏らす。そこには2人しかいなかったのだ。


「君達だけ? 他の皆は?」


 そこにいたのは、連れてきた鬼人の子の内、ノリさんの護衛を主に任せていた青年2人だ。怪我の状態が悪いので、比較的動きの少ない仕事を割り当てていた子達である。


「自分たちはこの怪我なので、ここで休んでいて……。他の皆は鬱金(ウコン)さんが連れて行きました」

「え……」


 ウコンが連れて行ってしまったと言うが、一体どこへ、何のために子供達を連れ出したのだろうか。


天鬼(アマキ)達が退屈に耐えきれず、ストレスが溜まっていたようで。それで外に連れ出してくれた感じです」

「成程ね……。分かった。ありがとう」


 何だか様子が目に浮かんで、笑ってしまいそうだ。僕が心配するほど、彼らはもう弱くないのかもしれない。

 この地域では沢山の差別を目の当たりにしただろう。精神的な打撃を受けていたのも知っている。しかしながら、彼等はもうすっかり立ち直ってしまったのかもしれない。


「住民達が散ったら、僕達も帰るから。2人も一緒に外へいこうか」


 僕は残っていた2人も連れて、鬼の子達がいるだろう屋外へと向かった。

 

***

 

 一体どこへ行ったのだろうか。視界に入る範囲にはいない。


「いない……」

「うん」


 グラも感知できないとなると、相当遠くに行っているか、気配を消して隠密しているかだ。


「ナキリ共鳴して」

「はいはい」


 僕は狂気を纏い広げていく。僕の狂気を感じれば、子供達は何かしら反応するだろう。僕達が探している事に気が付くはずだ。

 少なくても、共鳴状態になればグラが感知できる。


「いた……。皆隠れてるけど……」


 グラはそう呟いてその方向を指さす。それは、中央役場前の方だった。

 何故そんな所にいるのだろうか。退屈で抜け出したと言うのだから、広い場所で遊んでいるのかと思ったのだが……。


 身を隠しているのだから、彼等が何かをやろうとしているのは確かだ。今僕達がその場へ行けば隠密がバレてしまう事になる。邪魔をすべきではないかもしれない。


「皆無事でいるなら良いよ。僕達は呼ばれるまでは中央役場前には行かない方が良い。この辺で待機してようか」


 僕達は近くに積まれていた土嚢に腰を下ろし、子供達の合流を静かに待った。

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