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ナキリの店  作者: ゆこさん
14章 後始末
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14章-1.応援とは 2005.4.12

 避難地域の医療施設、地下フロアの最奥。避難地域の外へ繋がる地下通路入口前に僕達はいた。

 無事に目的地まで怪我人達を送り届けることが出来て、ほっとする。


百鬼(ナキリ)さんは……?」

「僕は戻るよ。まだやることがあるからね」

「お気を付けて」

「うん。頼んだよ。東鬼(シノギ)


 僕は皆を順番に送り出す。地下通路まで行ってしまえば、東家(アズマケ)の人間以外は出口には辿り着けない構造だ。安全と言えるだろう。

 ここへ来るまでの道もそれなりに厳しかった。大勢で移動するのだから、簡単に発見されてしまう。少しずつ慎重に、かつ、応援を呼ばれないよう迅速に、配置された戦闘員達を処理する必要があった。


 鬱金(ウコン)若菜(ワカナ)のお陰で、何とか思惑通りに上手く進むことが出来たのだ。僕一人では何も出来なかったと改めて思う。


「私はここに残ろう」

「ウコン様っ!?」


 全員を地下通路へ案内し終えたと思ったところで、ウコンが扉の前で止まった。前を歩いていたワカナが驚いて振り返る。


「彼には護衛が必要だ」

「ですが……。ウコン様も怪我人なんですよ?」

「まだこのフロアに戦闘員が沢山いる。彼1人では無理だ」

「……」

「彼がここに現れなければ皆死んでいた。恩がある」

「……分かりました」

「ワカナ。皆を頼んだ」

「はい。畏まりました」


 ウコンは彼女にそう告げると、地下通路の扉を閉めてしまった。僕は呆気にとられる。


「何を呆けている。戻るのだろう?」


 彼はニヤリと笑う。


「はい。よろしくお願いします」

「よし。頼まれた!」


 ウコンは深く頷くと、一切の疲れを感じさせない様子で駆け出した。

 僕も急いで彼の後を追う。片足がないのに僕より速い。相変わらず意味不明な身体能力に驚かされる。


「敵が近い。狂気を貰いたい」

「はい」


 僕は狂気を纏った。彼はいとも簡単にその狂気を喰らっていく。すっかり使いこなされてしまったなと思う。

 とはいえ、それが出来るのは鬼人(キジン)以外では彼ぐらいだとワカナは言っていた。


 幻術に長けた六色家(ロクシキケ)の人間でも、僕の狂気を喰おうとすれば狂ってしまうだろうと。安易に触れる事は出来ない代物であり、僕が放つ狂気自体に恐怖を感じるのだと。

 だから、狂気に適応できている彼が異質で異様で特別なのだと。


 地上フロアへ向かって進んでいると、次々に戦闘員達と出くわした。未だにこの地下フロアに散らばったままだ。地下通路への入口へ向かう時にも倒したのに、まだまだ多く残っている。

 むしろ、僕達が進んだ道を示すように戦闘員達の死体が転がったままなのだから、僕達がいる場所も自然と追跡されてしまったのだろうと思う。


 と、その時だった。

 僕は自身の狂気にリンクする存在達を感知する。


「鬼の子達が来たようだ」

「はい。そのようですね」


 僕の狂気が届く範囲に現れた複数の存在に、僕は安堵する。

 そしてそちらの方角へと視線を向けた。


「ナキリさ~ん!」


 廊下の向こうから、黄色のオーバーサイズのパーカーを着た天鬼(アマキ)が手を振りながら向かってくる。そして、その後ろにはグラと鬼神野(キジノ)もいる。

 3人は僕の元まで来ると、早速たっぷりと僕の狂気を喰らっていた。

 

 良かった。グラは無事だったと。僕はグラに傷が増えていない事を確認して、改めてほっとした。


「無事でよかった」

「当然」


 グラは当たり前だと言うように答える。だが、間違いなく厳しい戦いだったはずだ。

 そもそも負傷した状態で同格の相手と戦うのだから、負ける可能性がそれなりにある戦いだったはずだ。


「そっちは?」

「うん。お陰様で間に合ったよ。氷織(ヒオリ)東鬼(シノギ)は無事だった。地下通路へ逃がしたから安心していい」

「やるじゃん」


 グラも安堵したような様子だ。

 守りたいものが守れて良かった。間に合ってよかったと改めて思う。

 

「それで。2人はどうしてここへ?」


 僕はアマキとキジノへと問いかける。何故2人がこの医療施設へ来ているのだろうか。


「グラ(にぃ)を助けたよ~!」

「とてもピンチでしたからね」


 僕はチラリとグラを見る。するとグラはフイッとそっぽを向いてしまった。僕はそんなグラを肘で小突く。

 余裕で勝ったような口ぶりだったくせに、実際は相当厳しかったようだ。全く、ちゃんと報告して欲しいものである。


「捕虜にされた人達がいた倉庫の奪還は無事に成功して、そこを拠点に麒麟(キリン)の戦闘員を制圧しています。その動きが順調に出来るようになったところで、ノリさんから医療施設へ応援に行きなさいと。地図を貰って駆け付けました」

「そっか」


 どうやらノリさんの機転だったようだ。恐らく医療施設へ向けられた戦闘員の規模を把握して、僕とグラだけでは厳しいと判断し、2人を応援として送ったのかもしれない。


鬼人(キジン)の皆で協力して、いっぱい奪還したんだよ~!」

 

 アマキはフードを脱いで、僕にいつものへな~っとした緩い笑顔を見せて言う。


「鬼人の皆っていうのは、ここの地域にいた人達も?」


 アマキは笑顔で首をうんうんと縦に振る。どうやらこの地域へ避難し生活していた鬼人達とも協力して、頑張ってくれているようだ。


「ナキリさん、あの……凄く強いヒゲのおじさん、誰?」

「あぁ、六色 鬱金(ロクシキ ウコン)さんだ。この医療施設で療養していた人で、僕が地上へ戻るのに、一人では危険だからと護衛をしてくれていたんだよ」


 アマキはウコンに興味があるようだ。敵ではないと分かったからか、興味の赴くままに彼の元へ行ってしまった。


「ここへ向かいながら、戦闘員達を殲滅してきました。地上階の施設内も処理済みです。なので、戦闘員が残っているのはこのあたりだけです」


 フードを外して、キジノは僕へと状況を伝えてくれる。

 会話の時には顔を見せてくれるのは彼等の気遣いだろう。表情から様子が分かるため、僕としても安心する。

 

「うん。分かった。それならさっさとこの施設の敵を全て処理して、皆と合流しようか」

「はい!」


 それにしても、キジノとアマキだけでこの医療施設へと向かい、彼等の判断でそう行動したのだろうか。

 アマキが僕とグラがいない場でちゃんと動けるようになった事すら驚きであるのに、キジノと2人でやるべき事を考えて行動したと言うのだ。

 本当にいつの間に彼等は成長したのだろうかと思ってしまう。


 チラリとアマキの方を見ると、ウコンと楽しそうに会話していた。もう懐いてしまったのだろうか。ウコンに頭を撫でられている。

 何か通じるものが有ったのかもしれない。とても不思議な光景だ。


「あの人。ナキリの狂気を喰ってる……。どういう事?」

「彼の話だと、この狂気は『幻術』という類の物らしい。彼等六色家は、その『幻術』を専門に扱う一族だから、この狂気とも適応できたと言っていたけど」

「ふ~ん」


 グラもウコンに興味を示していた。


「ナキリの狂気を喰ってるからか、全く敵意や嫌悪感が湧いてこない。不思議」

「ふむ。それは面白いね」

「だからアマキも警戒してない」

「成程ね」


 グラが言うように不思議なものだ。僕はまだ自分のオーラに含まれる『狂気』について、全ては理解できていないのだろう。これからも試行錯誤しながら知っていく必要があるかもしれない。


「よし、じゃぁ行こうか。ここの戦闘員を殲滅して、皆の元へ戻ろう」


 僕達は皆の元へ戻るべく、再び動き出したのだった。


***


 グラ達が合流してくれた事で、殲滅を順調に進める事ができ、僕達はようやく医療施設から出た。

 医療施設の周囲には敵もいない。アマキとキジノが医療施設へ来る際に、先に倒してくれていたそうだ。


 避難地域の全体の様子は今も分からない。音や気配から、未だに各地で戦いが起きている事だけは分かる。

 取り急ぎは皆と合流し、状況を確認するのが良いだろう。


「おそらくですが、麒麟側は統制が取れていないと思います」


 隣を走るキジノが言う。

 僕が周囲を気にしていたからだろう。


「自分が受けた印象ですが、敵の本命は医療施設。その他は囮なのではないかと。戦力の分散の仕方や統制の状況からそう判断しました」

「ふむ……」

「囮として同時に施設を襲っている戦闘員達は、あまり状況が伝達されていないように思います」


 確かに、この避難地域の出入り口は僕達が制圧している。医療施設にいた高ランクプレイヤーも処理した。さらには捕虜が集められていた倉庫も奪還している。

 この状況が麒麟側で共有されているのであれば、戦闘員達は撤退するはずだ。これ以上の争いは殆ど無意味に近い。

 例え物資を略奪しても、外へ持ち出すルートが閉じられているのだ。奪っても仕方ないはずだ。


 おそらく、撤退の命令があるまでは、命の限り戦えと。1人でも多くの人間を殺すか捕らえろというような、ざっくりとした命令しか受けていないのだろう。


「それなら、後はもう戦うのみって事ね」

「はい。特に難しい作戦も不要かと。プレイヤーの姿もないので、殲滅すれば終わります」


 終わりが見えてきた事に、少しの希望を見出す。だが、まだ気は抜けない。物量がある。油断をすれば大事なものを失う可能性だってあるのだ。

 完全に終わるまでは集中していかなければ。

 僕は周囲の状況を可能な限り把握しながら、拠点の倉庫を目指し走り続けた。

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