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ナキリの店  作者: ゆこさん
2章 他店への訪問
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2章-4.派閥とは 2000.8.2

 解体ショーを行う場所は、建物の9階だった。そのフロアは、フロア全体が解体ショー専用の場のようだった。

 多くの観客が入ることが出来、飲食も可能な空間だ。解体の現場を見ながら飲み食いする人間の気は知れないが。

 

 僕達は開始時刻の1時間ほど前からショーの準備を行っていた。その場には(アカツキ)が既にいてテーブルで酒を飲みながらゆっくりしていた。

 僕と(アカツキ)の店の雑用係達で、淡々と準備を行う。

 

 アカツキからは準備は全て雑用係にやらせればいいし、指示して追加の仕事をやらせて構わないと言われていたが、全てを彼等に任せるのはあまり気乗りしない。

 チェックや最終確認をしながら僕は全体を見て回る事にした。


 僕はテーブルに並べられた道具類を確認する。

 いつも使う道具たちを見ると、ここがいつもの店ではなくても少し安心するような感覚がした。別のテーブルには、普段暁の店で使用しているという道具も並べられていた。

 

 どうやら僕たちの物とは随分と異なる形状だ。使い方が分からない程奇抜なものは無いが、デザインが大きく異なる。

 少し古風な印象だが立派な道具である事は分かる。ただ、それらは酷く汚れていた。あまり手入れはされていないように見える。

 

 僕はチラリと従業員たちに視線を向けた。すると何人かはビクッと震え緊張したようだった。僕の視線にビクついたうちの一人、4番の雑用係を呼び寄せる。

 すると彼は、恐る恐るといった様子で僕の元まで来ると、真っ先に僕の顔色を伺う。しかしながら、僕の無表情からは何も読み取れなかったのだろう。何をすればいいのか分からず戸惑い、居心地悪そうに俯き立ち尽くしてしまっていた。


「道具の手入れ、できない?」


 4番の青年は僕の問いかけに対し、はっと驚いた様子で顔を上げるも、何も答えないし動かない。固まったまま青ざめて冷や汗をかき始めたようだった。

 この反応はある程度予測はできていたものの、全く良い結果ではない。僕は小さく息を吐いた。


「君。もういいよ。13番やって」


 僕がそう声をかけると、13番の雑用係の少年は、すぐに僕の元まで小走りで来ると、道具を手に取った。

 この少年は、顔合わせの際に最初に僕へ質問をした鋭い目つきの少年だ。


「ナキリさん。僕は道具の手入れの仕方を知りません。教えていただけませんか」

「うん。いいよ」


 僕は少年にやり方を教える。彼が手入れの方法を知らないことも僕は把握していた。

 そして、誰からも教えてもらえない状況であるという事も。


 少年は僕が教えた事を1度聞いただけで理解しやってのける。筋が良い。そう感じて口角が上がりそうになる。

 と、そこへ9番の雑用係、11歳の少女が小走りでやってきた。真剣な顔つきだ。瞳の中に少し恐怖の色があるが、強い眼差しだなと感じる。


「私にもやらせてください」

「うん。じゃぁ、この道具を頼むよ」

「はい」


 僕は9番の少女にも手入れの仕方を教える。少女は不器用ではあったが、僕の話はしっかりと目を見て聞くうえ、理解できるまで何度も質疑をしてくる。

 技術を自分の物にしようとする意志が見て取れた。その様子は微笑ましい。

 とはいえ、僕が実際に微笑むことはないのだが。

 

 僕は13番の少年と9番の少女の手つきを気にしながらも、顔を上げて他の雑用係達を観察する。会場の準備をする者、何か話している者など様々だった。


 一通り手入れ方法を彼等にレクチャーしたので、僕は次に処分対象が磔にされる台座を見た。

 これはさすがに自分の店からは持ってくることができないため、暁の店にあるものを使用する方針だ。

 

 暁の店の磔の台座は、人間が大の字の体勢で磔にされるようなものだった。足の部分が開いているか閉じているかの差でしかないが、切断することを考えれば、アカツキの店の物の方がやりやすいだろうなと感じる。

 また、台座の足元には金属製の大きな桶のような物が取り付いている。流れ出した血液はこの部分に溜まる仕組みのようだ。僕の店の物は、流れ落ちた血液はそのまま床に垂れ流され、水を撒いて排水溝へ流す仕組みなので、大きく異なるように思う。


 血液を溜めていくのは、おそらく見栄えのためだろう。アカツキの店の台座は少し凝っているなと感じた。


「ねぇ。台座の管理は誰がしてるの?」


 僕が従業員達がいる方へ振り返って訪ねると、遠くで談笑していた者や会場のテーブルのセッティングをしていた者、飲食物の用意をしていた者含め、皆動きを止めてしまった。

 道具の手入れをしている13番の少年と9番の少女は手を止めずに視線だけをこちらに向けていた。この様子だと誰も答えてはくれないようだ。


「1番の君。説明してもらってもいいかな」

「あ。はい。えっと……」


 1番の男は状況がよく理解できていないようだ。困惑した表情をしながら僕の元へとやってきた。しかし、何を説明すればいいのか分からないようである。


「今日のショーでは台座だけはこちらの店の物を使わせてもらうんだけれど、少し状態が気になってね。この台座の管理は君がやっているんだよね?」

「はい。そうですが、何か問題でも……?」

「ふむ……。2番の君も来て」


 僕は2番の雑用係である15歳の女性を呼んだ。彼女は今日一日ずっと顔色が悪い。そして雑用係の中で最もやつれた表情をしていた。

 身だしなみは整えられているが、全体の印象でいえばボロボロだ。さらに言えば、とても痩せている。心配になる程に。

 

「この台座の問題点、君は分かる?」


 やってきた2番の女性に問うと彼女は小さく頷いた。


「全体的な汚れ。付着した血液を落とし切っていなかったために台座自体が劣化してしまっています。また、ベルト部分の劣化が激しく替えが必要と思います。このベルトは安全の為に非常に重要ですので。それと、使い方が悪かったのだと思いますが、台座に傷が多いです。修理するか板を変えるなどしないとそろそろ厳しいと見えます」

「うん。ありがとう。君の言う通りだね」


 正直この台座は劣化が進んでいて、いつ壊れてもおかしくない。危険だ。


「2番の君、今からこの台座、応急処置で修理できる?」

「できます」

「分かった。頼むよ」


 僕が2番の雑用係の女性に指示すると、彼女はすぐさまバックヤードの方へと去って行った。その様子を遠巻きに見ていた4番の男性も彼女の後を追うように出て行った。

 その様子に1番の雑用係は顔を歪めていた。面白くないのだろうなと察する。


 会話を通して見えてきた物で、僕は自分の推測をより確かなものへとしていく。概ね予想通りだ。特段驚くような事はまだない。僕は再び周囲で作業を続ける従業員達へと注意を向けた。

 すると、遠くの方で僕の様子を伺っている雑用係の少年がいた。彼は15番だ。15人の雑用係の中で最年少の6歳の子供である。目が合うと、彼は、ふわふわの茶色のくせ毛を揺らしながら、とことこと僕の方までやってくる。


「あ、あの~、ナキリさん。ナキリさんの道具、見せて欲しい……です」

「うん。いいよ。おいで」


 僕が答えると、少年はパァっと顔を明るくする。無重力を思わせるような癖毛のふわっとした様子と相まって、とてもふわふわとした印象を受ける。

 何だか調子が狂ってしまいそうだ。


 僕は気を取り直して、少年にメインの道具である大鋏を持たせた。

 すると、15番の少年は目を輝かせて道具に魅入っていた。

 何だかその様子は怪しい。刃物に魅入られているかのような様子だった。


 僕はそんな少年からは目を逸らさずにじっと観察する。この子からは目を離してはいけないと、何となく感じた。


「ナキリ」


 僕が15番の少年に付いていると、遠くからグラが僕を呼び、そして近づいてきた。


「代わる。危ない」


 グラはスっと僕と少年との間に入ると、大鋏を持つ少年の元にしゃがみこんで視線を合わせていた。そして、丁寧に道具の持ち方を教えていた。

 ここはグラに任せた方が良さそうだ。そう判断した僕はその場を離れた。

 

 その後僕は、飲食の準備をしていた3番、5番、6番の雑用係達の元へ行き、様子を伺った。彼等は楽しげに準備をしているようだった。

 手つきは慣れており、手際は非常に良かった。いつも彼等でやっているのだろうなと察した。

 

 あと、様子を確認出来ていないのは、7番、8番、10番、11番、12番、14番だ。まだまだ沢山いる。僕はうんざりしながらも、残りの雑用係達を探した。

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