悪夢
──夢を見ていた。
黒い人影たちが僕を囲っている。
その人影が僕を見て、口々に好き勝手に喋る。
──空前絶後の新記録!
──中学記録更新!
──これは未来のオリンピアンだ!!
──将来が楽しみだね!
…………。
場面が切り替わって、今度は今の自分が映し出された。
すると人影たちの目が赤く、血のように染まりまた口を開く。
──早熟タイプだったんだな
──まぁフォームを見ても伸びないかなとは思ってた
──誰だよ未来のオリンピアンとか言ったの(笑)
……やめてくれ。
──選手は悪くないよ。指導者が悪いよ
──桐生選手、裏では遊んでるって
──まじかよ。残念だわー
──そんなもんだろスポーツ選手って(笑)
本当に……。
──期待外れ
──やる気ないんじゃないの?
──落ちたな
ほっといてくれよ……。
……頼むから。
……。
……?
場面が切り替わった。
見覚えのない場所。
背景の例えとしては、古代ローマのコロッセオのような場所が見えていた。
そんな場所に、館にいたあの化け物と同じような見た目の怪物が倒れていた。
牛の頭に巨大な人型の身体。
血まみれで、よく見ると目が潰れていた。
そんな化け物へ近づく者がいた。
そいつは化け物のような巨体ではなく、人間のように見えたが、頭には角が生えていた。
恐らく悪魔とか、そんな類いのものかもしれない。
その悪魔が牛頭の化け物の目の前に立った。
するとその悪魔は、気色の悪い笑みを浮かべながら化け物へ問いかけた。
「強くなりたいか?」
……僕は知っている。
この言葉も、この謎の悪魔も。
一体何者なんだ。
しかし夢は無常にも、終わりを迎えた。