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神殿にて

本当に微妙な出来で自分にがっかり


こんな物で良ければ読んでいってください












王都の敷地内。


その中で、王城よりも奥に存在するのが神殿だ。


神殿の中には3人の巫女、その巫女の世話をする神に仕える乙女が数十人ほどで共同生活をしている。


巫女は普段、外に出る事は無い。特別な催しの際に1人だけが外に出る。


滅多な事では巫女が1人以上外に出る事は無く、3人全員が外にでる事は決して無い。


今回、カグラが外に出たのも学園の儀式があったからだ。









神殿の中は基本的に男子禁制の場所だ。


国王であっても事前に申請をして、身を聖水で清めてから初めて神殿に立ち入る事が許される。


その神殿に現在、1人の男性が足を踏み入れた。スーアである。


その所為か、今の神殿内は普段とは違い、騒然としている。


ある者はスーアとスーアを連れてきたカグラ、我関せずを決め込んでいるリイアを睨みつけ。またある者は好奇の眼差しを向け。ある者は穢れが立ち入ったと聖水を振り撒いている。


そんな中、1人の女性が前に歩いてくる。


「カグラさん! 神殿内に男性を連れ込むなんて! 一体何を考えているのですか!」


本来、乙女は巫女より立場が低い筈なのだが、この少女はカグラに向かい上からの目線で話しかける。


しかし、カグラはこれを無視するとスーアを奥に案内する。


「あ~、良いのか? あれ?」


「良いのです。それよりも早く他の巫女たちの所に行きましょう」


当然、無視された少女は腹を立て罵声を浴びせ掛けてくる。


だが、スーアとリイアを連れたカグラは早々に扉の奥に消えていった。












神殿の最奥、庭園の中に造られた巫女たちの間。


スーアとカグラ、リイアの前には今、2人の女性が立っている。


2人共にカグラと同じ服を着ている事から、残り2人の巫女なのだろう。


その2人も少しキツイ視線でスーアとカグラを見ている。


「カグラ、これはどういう事ですか?」


「神殿内に穢れの象徴である男性を招きいれた理由を聞かせなさい」


巫女と言うのは皆、このように高圧的なものなのだろうか?


思えば、カグラも初めは高圧な態度であった、恐らくは軽い選民意識でもあるのだろう。


「お控えください。今、貴方たちの前に居る方をどなたと心得ますか?」


(まるで何処ぞの副将軍みたいだ)


スーアも空気を読んで黙っているが、考えている事はろくでもない事だ。


「今、何と言いました?」


「最下位の巫女である貴方が私たちにして良い言葉使いですか?」


徐々に不穏な空気が広がりだす。


「黙りなさい。貴方たちは今、全ての父たる存在の前にいるのですよ」


言った途端、巫女たちに動揺が走る。


「全ての父? 何を世迷言を……」


巫女たちは全く信じていないようだ。


「真実です。学問を司る神であるデスクがこの方を父と呼ばれました」


カグラの言葉に目に見えて狼狽しだす。


「デスクの発言は私だけでなく、学園長であるリイア・アストラ・スレイクードも聞いています」


巫女2人の視線が一気にリイアに向かう。しかし、リイアは全く怯まずに巫女に視線を返す。


「事実だ。私も儀式に立ち会うのは知っているだろう?」


本来はリイアよりも立場が上である巫女に対してこの態度は有り得ないのだが、リイアは一歩も退く気は無いようだ。


日頃から鬱憤が溜まっていたのだろう。


(あ~、良い天気だな~。あ、蝶)


当事者であるのに置いてかれているスーアは相変わらずの暢気さを発揮している。


恐らく、もうしばらく待てば蝶と一緒に飛んで行ってしまうだろう。


神殿側と学園側の言い争いは激しさを増していく。


後少しでも刺激する物や人が居れば、双方供に爆発すると思われる。


「し、しかし、仮にそれが本当の事だとして、それを証明する事が出来るのですか!?」


「神を試すのですか?」


カグラのこの一言が引き金になったのか、部屋の険悪だった空気が殺意を纏った。


一触即発、この部屋の誰もがすぐに魔法を放てる体制をとる。


ただ、一人を除いて。


「お前ら、落ち着け」


スーアである。


先程まで我関せずを貫き、のんびり外を眺めていた彼も魔法が飛び交う騒ぎはマズいと思ったのだろうか? 2組の間に立ち、杖で制している。


「腹が減ったから、さっさと終わらせよう」


マズい等と、この男が思う筈も無かったか。


そう言えば、儀式を終えてその足で神殿に来たのだ。そろそろ夕食の時間になる、空腹を感じていても無理は無いが………。


「つまり、俺が何者か? それが知りたいんだろ?」


スーアは杖をゆっくりと掲げる。


「来い、フツ」


スーアが呟くと、光が部屋を満たす。


光が消えると、そこにはデスクと同じ、白い髪と白い眼をした男性が浮いていた。


『人族の守護神、フツを呼ぶ者よ………親父殿ではないか』


「あれ? イパシリ? フツはどうした?」


どうやら本来呼んだ神では無いらしい。


彼の名前の由来は彼の名誉の為に黙っておく。


『フツは今、風呂に入っている。少々時間が掛かるだろう』


「あのバカ、いつ呼んでも風呂に入ってやがる。あいつはし○゛かちゃんか」


スーアがお風呂界のカリスマの名を呼んでいる間も、他の4人はしっかりとイパシリの姿を見ている。


尊敬の眼差しを向けるカグラに無表情なリイア。


そろそろ止めなければ顔のパーツが色々と落ちてしまうのでは無いかと思われる巫女2人。


「どうです、見ましたか? そして理解したでしょう。この方がどの様な存在か」


未だに驚愕の表情でいる巫女達に誇らしげにカグラは語る。


あまり大きいとは言えない胸を張り、崇拝の念を込めている。


「何を威張っているのかは知らないが、お前は誇る事では無いだろう?」


そんなカグラにリイアが冷静にツッコミを入れる。


「「ご無礼をお許しください!」」


そんな各々の行動を妨げる声。


見れば巫女が2人、スーアに向かい跪いている。


「たった一言で神を呼び出し、尚且つ父と呼ばれる者はカグラの言うとおり、全ての父たる存在で御座います」


「そのようなお方に対してのご無礼、平にご容赦ください」


どこか時代劇風なのは創ったスーアの影響なのだろうか?





















神殿で滅多に使われる事の無い一番大きな部屋。


学校の体育館を想像してもらえば分かりやすいだろう。その部屋に神殿内にいる人間が全て集められていた。


急な召集なのにも関わらず、乙女たちは綺麗に整列している。


理由としては恐らく、カグラが連れてきた男性の所為であろう。事前の連絡も、身を清める事も無く神殿に男性が入った。


これだけで普段の娯楽が少ない乙女たちの好奇心を刺激するのは十分だったのだろう。


尤も、大多数の乙女は神殿に穢れが入り込んだ理由を知りたかったのだろうが。





一段高くなっている部屋の前方。


そこにカグラを含めた巫女3人がスーアを先導するかのように出て来る。


その姿に乙女たちは有り得ないものを見る目をしている。


当然だろう。乙女たちは、無礼な男はとっくに断罪され、穢れを祓う為に全員で祈りでも捧げると思っていたからだ。


しかし、出て来た巫女たちは男がいるのは当然といった佇まいだ。乙女たちが動揺しない筈がない。


困惑とした空気の中、巫女の1人が前にでて話し出す。


「皆に集まってもらったのは他でもない、貴方たちも知っての通り先程、神殿に来客がありました」


来客、という言葉に乙女達はどよめく。


侵入者、あるいは穢れと言うならば分かる、だが巫女は使った言葉は来客だ。


それはつまり、入り込んだのでは無く招いたという事に他ならない。


何故に巫女は許可無く立ち入った男を客と言ったのか? 乙女達の間に若干の動揺が生まれ、伝播でんぱしていく。


「静粛になさい。……カグラは今日、学園に神デスクの召還をしにおもむきました。

皆も知っているでしょう、学園で最も優秀な新入生が学問の神であるデスクと拝する、伝統ある儀式です」


そこまで話すと巫女は乙女達を見廻し、一回、深く深呼吸をすると続きを話し出す。


「儀式は滞り無く進み、神デスクは召還されました。そして、最も優秀な者を見た時、こう言ったそうです『お父様』…と」


言い終わった瞬間、乙女達は一気に騒然とし部屋の中を埋め尽くす。


もはや軽い暴動のような騒ぎに、しかし巫女達は冷静だった。


「静粛になさい! ……そして、カグラはその方を神殿へと招きました。我らも最初は信じられずに疑うばかりでした。しかし、そのお方はたったの一言で神イパシリを呼び出すという奇跡を我らに見せ付けられました! そして神イパシリもそのお方を父と呼んだのです!」


段々と巫女の口調が感極まってきた。


よく見れば、巫女の顔は赤く、興奮状態にあると分かる。


「そう、貴方たちの前に立つ、このお方こそが、我らが住む大地を輝く太陽を煌く星々を生けとし生ける者全てをお創りになられた全ての父たる存在なのです!」


一息にそこまで言い切ると両手を掲げ、天井を見上げる。


どうやらこの巫女、演説をしている内に自分に酔ってしまったらしい。


しかし、そんな巫女の様子などには気付かず、部屋にいた乙女達は残らずその場に跪いた。中には涙を流す乙女すらいる。


そんな、見る者が見れば神聖だと言うであろう光景にスーアは引いている。


リイアは彼女曰く『特等席』である舞台の袖で必死に笑いを堪えている。


そんな紹介を終えた後が凄まじかった。スーア1人に何十人という乙女が群がり、穢れと呼んだ事を謝っていた。


聖水を撒いた乙女に至ってはスーアの足元に縋り付き号泣しながら謝り続けるという、何とも反応に困る事をしていた。


流石にスーアもこれには参ったのか、彼には珍しく「気にしてないから」と、気遣いの言葉を言っていた。



















「しかし傑作だったな」


食事を済ませ、出された紅茶を飲みながらリイアは言う。


この食事も、裏では大変な騒ぎがあった。


本来の当番の者を押し退けて自分が作る、いや自分がと厨房に入り切らない程の乙女が殺到していた。


「何が……ああ、学園で言ってたやつか」


つまりは、リイアの『神殿にいる普段はすましている連中が慌てふためく様を見てみたい』の発言だ。


にやにやと笑いながら萎縮している巫女を見ている。


趣味の悪い事とは言え、普段の巫女達は高圧的な態度で接していたのだから無理もない……と、思いたい。


そんな和やかな雰囲気の中で、巫女の1人が口を開いた。


「我らが父よ。最近、異世界の人間を自称する者たちの姿が見受けられるらしいのです。国の者たちが不安がっているのですが、原因を教えて頂けないでしょうか?」


しかし、スーアにとっては初耳なので原因も何も分からない。


「異世界人? そんなのがいるのか?」


「貴方様でも知らぬ事でしたか……」


「後でその辺の担当してる奴に訊いて見る」


スーアは最近『世界』の管理は自らが創り、生み出した神に任せている。


恐らくは管理をしている神に訊けば答えは分かるだろう。


紅茶を飲み干したスーアたちに今日は既に遅い時間だという事もあり、神殿に泊まっていくようにカグラに勧められた。


特に断る理由も無かったのでお言葉に甘える事にした。





























王都から遠く離れた荒野の中央。


暗く静まった空間、そこには何も無かった。


夜には生き物の姿ですら滅多に見えないその荒野に突如、眩い光が溢れた。光は夜の荒野を昼のように照らす。


徐々に小さくなっていく光は、やがて人の形を取った。


光が完全に収まると、そこには1人の青年が立っていた。


「え? え? 何? ここどこ?」


青年は辺りを見回し、状況が飲み込めていないかの様に騒ぎ出す。


「そ、そうだ! 携帯の地図!」


ズボンのポケットから折りたたみ式の携帯電話を取り出し、操作しようとする。


「圏外……海外対応の型なのに何で……?」


光を放つ液晶を見つめ、絶望したかの様な声を出す。


「待てよ? 海外対応なのに圏外で、見たことも無い荒野? もしかして………」


青年は唐突に空を見上げる。


そこには、彼の故郷の世界よりも大きな月が浮いている。


「まさか……異世界!? 召還とか!? マジで!? きたーーーーー!! 俺の時代きたこれ!!」


先程まで少し落ち込んでいた青年は、急に狂ったかの様に笑い出す。


「当然チート級の能力とかでハーレムになったりして!? よっしゃーーー!!」


いい加減にしなければ、魔獣が寄ってくるだろうが、青年はやめようとしない。


「それで!? 俺を召還した女の子はどこ!? 恥ずかしがってないで出ておいでー!」


しかし、運が良いのか今日は魔獣の類は近くにはいないようだ。


しばらくの間大声を上げながら走り回っていた青年だったが、やがて疲れたのか息をきらせて立ち止まる。


「はぁ、はぁ、おかしいな、もう息がきれた、体力はチートじゃ無いのか?」


膝に手を当て、荒い呼吸を整えているが、ついにはその場に座り込み寝転がってしまった。


このままでいれば、明日の朝には白骨死体が荒野に野晒しになるだろう。


だが、彼の運の良さが起因しているのか、夜だというのに馬車が彼に近付いている。


青年は馬車に気付くと起き上がり走り寄っていく。まだまだ元気な様子であった。






























「異世界、か………まさかな」

最後の呟きはスーアのものです


これだけは譲れない

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