学園
「と、言う訳で君たちはこれから5年間、この学園で学んでいくのだが………」
魔法学園講堂。
無駄に広いこの場所に、ぱっと見で200人程の新入生の姿が見える。
その姿はバラバラで、人族、獣人族、鳥人族、魚人族、魔人族などだ。
貴族の他にも平民も居る。
皆同じ制服を着ておとなしく椅子に座っている。
スーアだけは今までと同じ服装だ。
「こんな趣味の悪い制服なんか絶対着ないぞ!」
の、一言で私服のままを通した。
本来、新入生の中で1番実力のある者だけが着れる制服とやらで、上は形は普通のブレザーなのだが色が濃い紫でいたる所に金色の装飾がついている。下は形はスラックスだが色が濃いピンクなのだ。
こんな趣味の悪い色をした服が新入生の憧れらしい。
本来、その制服を着る筈だった生徒からは憎悪の眼差しを受けた。
「え~つまり、この学園に通うという事は………」
偉そうな中年男性の言葉はまだ続く。
「なぁリム、この話何時まで続くんだ?」
詰まらなそうに横に座るリムに話しかける。
「わかりませんわ」
リムもうんざりした様に答える。
何せ男性の話は既に2時間は続いている。周りの生徒も疲れ果てている様子だ。
「え~では、これで私の話を終わります」
ようやく終わったと一同が安堵の息を吐く。
「それでは次は学園長のお話です」
どうやら先程の男性は教頭か何かだったらしい。
いい加減にして欲しい、そんな空気の中に出て来たのは、
「学園長のリイア・アストラ・スレイクードだ」
リムの母親だった。
「教頭の話が長すぎる為、一言で済ます」
講堂を見回す。
「入学おめでとう。以上だ」
短すぎる挨拶に、しかし生徒たちの顔はあからさまにほっとしている。
「リムの母親って学園長だったんだな」
「あら? 知りませんでしたの?」
意外そうな顔でスーアを見る。
「お母様はこの魔法学園の学園長でお姉さまは学園の生徒ですのよ」
まるで自分の事の様に誇らしげに説明を始める。
「お姉さまは2つ上の学年で首席でいらっしゃるのですわ」
語りに熱が入ってくる。
「お母様は伝統ある魔法学園の学園長に若くして就任されましたの! 元々、お父様もお母様も学園の生徒でしたのよ!」
既に誰も訊いてない事まで語りだす
「それで、大恋愛の末に結婚なされたの! お父様が公爵家の長男でお母様が侯爵家の長女! それで………」
放って置くと先程の教頭並に話を続けそうだったので止める事にした。
「わかった、もう十分だから。ほら担任っぽい人が集合しろってよ」
スーアが指した方向では若い男性が新入生たちを集めている。
男性の後に続き、教室まで案内された。
「今日から君たちの担任を勤める事になった………」
担任が何やら話しているが、元々興味の無いスーアは早々に窓際の席を確保すると後はぼーっと窓の外を眺めていた。
横にはちゃっかりとリムが座っている。
1クラス30人弱しかいないのにやけに広い教室だ。
「では、これからよろしく」
やっと担任の話が終わったらしい。
「後、学園の中の施設等は各自で確認しておく様に」
言い残し教室から出て行く、中々に適当な感じだ。
生徒たちも立ち上がり教室から出て行く。
そんな中、数人の生徒がスーアの元に近づいてくる。
「おい! 貴様! 制服はどうした!?」
かなりの上目線で話し掛けてくる。
「ん? ああ、捨てたよあんな趣味の悪い服」
だるそうに生徒の方を見向きもしないで答える。
「捨てただと! 栄誉ある首席服を捨てたと言うのか!」
たちまち顔を赤く染め怒鳴り始める。
「あの首席服は僕が着る筈だったんだぞ! それを横取りした挙句に捨てるなんて!」
余程、腹に据えかねたのか手近な机を殴ると、
「許せない! 勝負しろ!!」
何て事を言ってくる。
「嫌だよ、面倒くさい」
相変わらず窓の外を眺めながらに答える。
「ふん! 逃げるのか? 臆病者め、僕に負けるのが怖いのだろう」
勝手に良い様に解釈して勝ち誇る。
「あー、怖い怖い。だからさっさと消えてくれ」
スーアの中にはやる気というものは存在しているのだろうか?
しかし、横で聞いていたリムはやる気に溢れているらしい。
「黙って聞いていれば偉そうに! スーア様が貴方如きを恐れる訳がないですわ!」
立ち上がり男子生徒を睨みながら叫ぶ。
「何だと!」
「何ですの!」
睨みあう両者。一触即発だ。
「分かった、分かった勝負でも何でもしてやるからお前ら黙れ」
やっと視線を生徒に向けたスーアだが、やはりやる気の欠片も見当たらない。
「良い度胸だ! ならば広場に行くぞ! ついて来い!」
先導して歩き出す男子生徒たち。
「はぁ、面倒臭い」
ため息を吐き歩き出すスーアとリム。
「俺って、何か変な奴にばかり絡まれるなぁ」
「逃げずに来た様だな! 褒めてやる!」
だだっ広い広場の丁度、真ん中辺り。
芝生の上で仁王立ちをしている生徒が叫ぶ。
「はいはい、それで勝負の内容は?」
恐らくスーアのやる気メーターはぶっちぎりでマイナスなのだろう。
「無論、魔法を使った真剣勝負だ。」
「わかった、さっさと終わらせよう」
杖を構える生徒。
「一応、名乗っておこう。僕の名はフルト・ヒュード・ハルトウィック、伯爵家の長男だ」
杖を構えつつも、お家自慢は忘れない。
「君が勝てるとは思わないからちゃんと手加減をしてやろう」
「それは、どーも」
恐らくフルトの取り巻きであろう生徒が審判をする。
「初め!」
審判の生徒が叫ぶと同時にフルトは詠唱を開始する。
「炎よ、燃え盛る火炎よ、我が杖に集いて我が敵を屠れ! ファイアボール!」
詠唱が完了するとバスケットボール程の大きさの火の玉がスーア目掛けて飛んでくる。
「ははは! 燃えろぉ!」
勝利を確信したフルトの声が響く、しかし。
バサッバサッバサッ
翼を羽ばたかせる音が聞こえると同時に凄まじい風圧が広場を襲う。
火の玉は風圧に飛ばされて空中で爆発した。
「主よ、置いていくとは酷いではないか」
「クゥーン」
フーを背中に乗せたドラゴンが広場に着陸する。
「な、な、な、何で此処にドラゴンが!!」
ドラゴンを見上げながらフルトが叫ぶ。
「に、逃げろ!」
「待てよ!」
フルトの取り巻き達が逃げていく。
「ま、待ってくれ! 腰が抜けて立てないんだ! 置いてくな!」
その場で座り込むフルトが情けない声を出して助けを求める。
だが、取り巻きたちは自分が助かるのが優先なのか気にせず走り去る。
「あー、悪い。また忘れてた」
「やはりか……まぁ良い。主の存在は大き過ぎるので何処に居てもわかる」
「ウゥゥ!」
ため息を吐くドラゴンと文句を言うフー。
「それで、我の名前は考えてくれたのか? 主よ」
期待に顔を輝かせながら嬉しそうに訊く。
「………忘れてた」
それを聞いた途端、眼に見えて落胆する。
「……そうか、良いのだ。主の気の向いた時にでも考えてくれれば」
しょんぼりしながら卑屈になる。
「良いのだ、我は初めに主を襲ったのだから………」
ぶつぶつと愚痴を零す。
「悪かったって! すぐに考えるから、少し待ってろ!」
その場に座り考え込む。
「何なんだ! そのドラゴンは! お前は何者なんだ!」
未だに腰を抜かして立てないフルトがドラゴンを指差し訊く。
「あのドラゴンはスーア様の従者ですわ!」
何故かリムが誇らしげだ。
「ド、ドラゴンが従者だと! そんな訳ないじゃないか!」
「うるさい! 考えが纏まらないじゃないか!」
「ひっ!」
あまりに大きな声で叫んでいたためか、スーアが怒る。
「……良し!お前の名前はラークだ!」
どこかで聞いた事のある名前をつける。
「ラーク、ラークか……気に入ったぞ、主よ」
心なしか嬉しそうに名前を繰り返し呟く。
カーン………カーン………カーン………
鐘の音が鳴り響く。
「あら? スーア様、授業の時間ですわよ」
鐘に反応したリムがスーアに告げる。
立ち上がりズボンについた汚れを軽くはたいて落とす。
「そうか、じゃあ俺は帰る「さ、行きますわよ」はなせ~」
教室と逆方向に歩き出そうとしたスーアの腕を掴み引っ張っていく。
「お前らはそこで大人しくしてろよ~」
後に残されたフーとラークに叫びながら教室に連行されてゆく。
とりあえず、フルトは完全に無視されている。
「………やることも無い、此処で休んでいるか」
「ウォン!」
「誰か………助けて………」
憐れと言えば憐れだが自業自得と諦めてもらう他無い。
「さて、どうやって学園を辞めるかが問題だな」




