闘技場
がんばったと思う、多分、きっと、恐らく
「これより、公開処刑を開始する!!」
広大な闘技場に響く騎士の声。
「罪状はミムリース・ファイラス・ジェリテオン姫様を愚弄した事による不敬罪!!」
その闘技場は円筒形をしており数十メートルの高さにある観客席に見下ろされるように舞台がある。
「尚、罪人はこの処刑を耐え切った場合にのみ、特別に恩赦がある!」
これがこの国の処刑。
死刑の場合はその限りではないが処刑の場合は耐え切れば許される。
因みに、処刑を耐え切った者はこの法ができてからは1人も居ないらしい。
「では、執行人の入場である!」
壁につけられた鉄格子が音をたてて開く。
「今回は、姫様の御意向によりまず姫様御所有の魔獣、耐え切れた場合にのみ罪人30人、その後騎士1名と戦うものとする」
本来は、まず罪人1人と戦い勝てれば騎士との戦闘になる。
ジャラ・・・ジャラ・・・ジャラ・・・
「シャーーーーーーー!!」
鉄格子の向こうから現れたのは、人など丸呑みにしてしまいそうな程に大きなトカゲであった。
首には鉄製の鎖がのびる首輪がしてある。
トカゲは舞台の丁度真ん中に立つスーアに対して威嚇を続けている。
「では、処刑を開始する!!」
「しかし、何だ? このおかしな法律は?」
舞台の真ん中でスーアは溜息を吐く。
杖はここに連れられて来る時に没収された。
「丸腰の状態で一般人がどう勝てと?」
この法律はどちらかと言えば娯楽の意味が強いのだろう。
観客席には市民もちらほらと見えるが大体が貴族などの身分が高い者ばかりだ。
つまりは、初めから恩赦など与えるつもりは無く、逆らう者はこうなるという見せしめだ。
「まあ、俺は一般人じゃないけどな」
徐々に近づいてくるトカゲに向かって歩き出す。
「姫様! どうかおやめになってくださいまし!」
闘技場の一際眺めの良い場所。
俗に言う貴賓席でリムは必死にミムリースを説得しようとしていた。
「嫌じゃ、既に処刑は始まっているのじゃ。罪人が泣いて謝っても手遅れなのじゃ」
「でしたら、せめて杖だけでもお返しください! あれではスーア様が!」
「この処刑では罪人は素手と決まっておる、諦めるのじゃ」
「そんな……」
力なく俯くリム。
しかし何かを決意したような顔をする。
「でしたら、私も罪人としてスーア様の所に行かせてくださいまし!」
「な、何を言っておるのじゃ! そのような事できる訳がなかろう!」
「私はスーア様の未来の妻ですわ! それくらいの事など、どうと言う事ではありませんわ!」
胸に片手を置き高らかに宣言する。
「気でも狂うたか! そなたは「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」な、何じゃ!」
2人が舞台に視線を戻すと、そこには全身傷だらけで気絶しているトカゲの姿があった。
少し前。
「シャーーーーーーー!!」
トカゲとは思えない跳躍力で飛び掛ってくる。
「遅いっての!」
その場でしゃがみトカゲの攻撃を躱す。
トカゲが真上にきたタイミングを狙い腹に蹴りを放つ。
「グギャーーーーー!」
叫び声をあげ離れた場所までとばされるトカゲ。だが、すぐに起き上がり再び威嚇を始める。
「鳴いてばかりじゃ勝てないぞ?」
言った瞬間、スーアの姿が消えトカゲの後ろに現れる。
「死ぬなよ?」
トカゲが気付き振り向くが既に遅かった。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
迫る拳、拳、拳。
拳の弾幕を全身に余す所なく浴び吹き飛んでいく。
「シャギャーーーーーーーー!」
一際大きな叫び声を断末魔として上げ、地面に叩きつけられるとそのまま力尽きる。
「死ななかったな、いい子だ」
笑いながら褒めてやる。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
沸く観客たち。
それには一瞥もせずに貴賓席に座る姫を見る。
「さて、次を出して来い」
挑発の意味を込めた笑顔で手招きをする。
「何が起こったのじゃ!」
「スーア様、魔法を使わなくてもお強かったのですわね!」
目を見開くミムリースと目を輝かせるリム。
「一体何が起きたのじゃ!?」
傍に控えていた侍女に物凄い剣幕で詰め寄るミムリース。
「そ、それが素手でトカゲを殴り倒しました」
「何じゃと! 信じられん!」
巨大なトカゲを素手で殴り倒す、実際に見なければとても信じられる物ではない。
だが、現にトカゲは倒れている。
信じない訳にはいかずミムリースは地団駄を踏みながら叫ぶ。
「何と言う事じゃ! わらわの魔獣が負けてしもうた! えぇい! 次じゃ、次を出せ!!」
それを聞いた騎士が慌てて次を呼ぶ。
「つ、次! 罪人どもを連れて来い!」
「はっ!」
伝令の為に走りだす兵士を見送る事もせずミムリースは今度こそ見逃さない様に舞台を見下ろした。
再び鉄格子が開く。
中からはいかにもな顔をした屈強そうな男たちが30人、皮鎧を着込みそれぞれの得意とする得物を手にぞろぞろと歩いて来た。
男たちは皆、にやけた笑みを浮かべスーアを中心に取り囲み、品定めするように眺める。
「おい、あのひょろい奴を殺せばいいのかぁ?」
「それだけで刑期が縮むなんてなぁ!」
「何したか知らねぇけどよ、俺らの為に死んでくれ!」
男たちは黙るという事を知らないかの如く騒々しく怒鳴る。
(やばい、こいつらムカつく)
余りにも口汚い男たちにスーアは嫌悪感を隠そうともしない。
(こんなのでも俺の可愛い子供たち………可愛い……かわい……)
「認めねぇ! お前らなんか可愛くない!」
スーアが壊れた。
「断じて認めないぞ! お前らみたいな汚くてむさい奴らが可愛い筈がない!」
男たちを指差しながら叫ぶスーア。
確かに可愛くは無い。それでもこの『世界』に生きている以上はスーアの子供である事には違いないのだが………。
「何言ってるんだ? あいつ?」
「怖くて頭が狂っちまったんじゃねか?」
「情けねぇ野郎だぜ!」
「「「ぎゃっはっはっはっはっは」」」
ぷちん。
何かが切れる音が舞台に響く。
瞬間、地面が男たちの下半身ごと凍りつく。
「何だ! 足が!」
「おい! 嘘だろ!」
身動きできなくなった男たちに見せ付けるかの如くスーアの掲げた手に雷の玉が生成される。
生まれた雷の玉は瞬く間に育ち、スーア自身よりも大きくなる。
バチバチと音をたてるそれをみた男たちの顔は蒼白を通り越して真っ白だ。
「冗談だろ!?」
「何で魔法が使えるんだよ!?」
この『世界』の常識として魔法は杖がないと極端に威力が下がる。
しかし、スーアの杖は言うなれば飾りだ。有っても無くても構わない。
そんな事など知る筈もない男たちは疑問を次々と投げかける。
だが、無情にもスーアは掲げた手を握る。
バリバリバリバリバリ!!
ぎゃあああああああああああああああああ!!
30人の悲鳴の合唱が闘技場に響き渡る。
下半身が凍っている為に倒れることもできずにその場に立ったまま気絶する。
ちゃんと生きているところを見ると最低限の理性は残っていたようだ。
「これで静かになったな」
辺りを見回し呟く。
静かにはなったが、観客ごと黙らせる事になった。
「最近キレやすいなぁ、カルシウム不足が?」
戦闘か?これ?
次回こそ戦闘らしい戦闘を書いてみせるぞ!
感想有難うございます
おかげで1日中にやけた変態が出現致しましたw




