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91.『雲を晴らすドラミング』

かつて「きゅうじゅういち」だったもの

晴れ渡る空に、ぽつりと浮かぶ一つの雲。

まるで迷子のように、恋しく感じられた。


どうしてあんな高い場所で、ひとりでいられるのだろう。


ぼくの心は、この天気と真反対だった。

灰色の雲海が覆いかぶさっていた。


受験に落ちたと知らされた朝。

母と妹と出かけた父の車が、帰ってこなかった。


携帯に鳴り響いた知らない番号。

緊張の隙間に流れたニュース速報。

音だけが、頭にこだましていた。


それでも、お腹は空くし、眠気にも襲われる。

人間はどこまで鈍くなれるのだろうと感心した。


無意識に握りしめた拳で、胸を叩いた。

ゴリラみたいだと思った。


何の意味があるのかはわからない。

自分を鼓舞したいのか、制裁したいのか。


ばかみたいに、何度も、何度も自分を殴った。


痛みはすぐ消えた。

といか、感じなかった。


やんわりと残った鈍い重みは、むしろ心地よかった。


もし、ぼくの心臓がもっと強ければ、

この奇妙な重圧も跳ね返せるだろうか。


全身に張り巡らされた血管を通して、

失った夢や家族の面影と向き合えるだろうか。


気づけば、拳は止まっていた。


空を見上げると、さっきの雲が消えていた。

あれほど目立っていたのに。


ぼくも、そのうち、そうやって

誰の記憶からも消えていく。


けれど、その空は思いのほか明るく、

雲の抜けた青が胸にじわりと染みた。

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