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81.『1人の夜、侘しさのテイスティング』
かつて「はちじゅういち」だったもの
心臓の鼓動さえ忘れるような静かな日々。
だが、不意に、槍に貫かれるような痛みが胸を襲う。
ああ、またか。
これは何度も経験した痛みだ。
悲壮や絶望の塊。
心理的な疼痛であると、頭では理解している。
けれど、脳はあたかも現実の傷のように錯覚する。
わびしさ、むなしさ。
苦みで喉が焼かれるような感覚。
それをどうにか避けようとしていたが、結局、
ただ、それが過ぎ去るのを待つことしかできなかった。
だが、いつ頃からか。
ビールの苦みが美味しく感じられるようになったのと同じように。
この痛みも、悪くないものではないかと思えるようになっていった。
曲名も知らないクラシックを流しながら、ソファに深く沈み込む。
薄暗い部屋に響く旋律。
指先のグラスの冷たさと、喉を通るアルコールのタンニン。
そして、胸を刺すような香ばしい苦み。
それらすべてが酒のつまみのように、
僕の夜を引き立てている。
しみじみと、静かに、ひとり、杯を傾ける。
それでいい。
それがいい。