表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/100

80.『珈琲で語る選択の難しさ』

かつて「はちじゅう」だったもの

「先輩は、山と海、どちらが好きですか?」


喫茶店の窓際の席で、コーヒーの湯気を揺らしながら、後輩が何気なく尋ねた。


いつもの雑談かと思い、適当に流そうとしたが、何となく真面目に考えてしまった。


「山は虫が家に入って気持ち悪いし、海は潮風で建物が傷みやすい」


後輩はきょとんとして、


「遊びに行く場所として考える方が多いですよ」


と、やんわり指摘してきた。


それもそうか。

しかし、僕にはそれぞれに難点がある。


「肌が弱いから、山は植物にかぶれるし、海は塩水が沁みて嫌だ」


後輩は深いため息をついた。

「理由はどうでも良いんです。どちらか、選んでください」


こいつは、やけに 「ことば」 にこだわる日もあれば、ときどきこうして雑な日もある。


仕方ないので、僕の好きな場所を答えることにした。


「川や湖の方が好きだ」


後輩は眉をひそめた。

「選択肢にないですよ」


「でも、淡水には優しさを感じるし、そこで生きる魚もどこか謙虚に見える。」


それは北海道で生まれ育ったせいかもしれない。

川は、春には雪解け水が流れ、秋には鮭が遡上する。

海のように荒々しくなく、山のように閉ざされてもいない。


しかし、二者択一を求められた場で、第三の選択肢を持ち出すのは反則だろう。


後輩は鼻で笑い、

「そうですか、ありがとうございました」

と、端的な言葉を残して店を出ていった。


残された僕は、窓の向こうの雪景色を眺めながら、コーヒーを啜る。


くしゃみをして鼻をすする。

温めるために体を抱え込む。


なんとなくだが、この質問は冬にするものではないと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ