表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

73.『見せない腕、消えない記憶』

かつて「ななじゅうさん」だったもの

僕は夏でも長袖を着る。

汗がにじんでも、袖をまくることはない。


その癖、額の汗は丁寧にハンカチで拭く。

不快感を取り払うように。


「こだわりが強いやつだな」


同僚は笑いながら、鍛え上げた腕をこれ見よがしに見せてくる。


努力の成果だと思う。

彼らが誇ることを否定するつもりはない。


けれど、僕の腕にも歴史が詰まっている。

子どもの僕が抱えきれなかった、苦悩の日々が。


刑務所の壁に爪を立て、時間の経過を刻むように、

僕は腕に線を重ねて、じっと、じっと耐え忍んだ。


それは 「家を出るまでのカウントダウン」 であり、

逃げるまでの痛みの吐き捨てだった。


家の柱に身長を記録するように、

僕の腕には、刻み込まれた過去があった。


僕はこれを「隠している」つもりはない。


ただ、思い出したい時にだけ見えるようにしているだけだ。

必要のない時には、心の端にそっとしまっておきたい。


だから、今日も僕は長袖を着る。

何もなかった顔をして、袖を引き下げる。


確かに夏は暑いから困らないわけではない。

けど、僕の腕の傷は冬にしか疼かない。


だから夏は嫌いではないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ