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7.『皮肉的な盲目の効用』
かつて「なな」だったもの
加虐の先に広がる海原へ、道連れを携えて船は漕ぎ出す。
こんな無慈悲な旅でも天気が良いのは皮肉に感じた。
船底の木目を執拗にピックで突き刺す者たちは、前方の氷塊に気付かない。
眼前のみが彼らの世界の大半なのだ。
寒さを幾度も経験しても、一度その身を過ぎてしまえば、
不思議なほど足早に忘却の渦へと消え、誰にも知らせずに行方をくらます。
去年の私を今の私は思い出せない、別人のように。
斜光に照らされた雨粒が降る中、その盲目的な売買は焦燥を抱えながら繰り返される。
真の価値を測らずに、目に見える範囲の安易な甘味に喜ぶ姿は、無価値に等しい。
いや、その姿は娯楽にはちょうど良い。
いつか仕返しを受けるだろうと、ほくそ笑む私の足元に迫る不安はない。
信じた善は報われず、忌避した無能が生き延びることもある。