68.『精神の氷、刻まれる歴史』
かつて「ろくじゅうはち」だったもの
精神の不可逆性を痛感するのは、決まって夢の中だ。
もう終わったはずの記憶が、その世界で鮮やかに蘇る。
埋めたはずの感情が、遠い地層から掘り起こされる。
吐き気を催しながら飛び起きた夜は、数知れない。
時に汗でぐっしょり濡れたシャツの感触。
夢の中で見た出来事よりも現実味を帯びていることに気づく。
名前すら忘れていたはずの彼の顔。
醜悪な口角と汚い笑い声。
僕は憎らしいほど鮮明に思い出していた。
人の命は、きっと氷のように繊細だ。
どれだけ守っていても、人生を歩む中で少しずつ削られる。
本来は悪いことではないだろう。
それぞれの傷や怪我が、個々の形を作っていくのだから。
やがてそれは石碑のように姿を現し、
僕らが何者であったかを、ただ静かに物語る。
本当は、アイスボールのように綺麗な澄んだ氷になりたかった。
歪みなく、曇りなく、ただ透き通る存在でいたかった。
それでも僕らは、無骨に魂に汚しながら、岩場を転がり落ちていくのだ。
歴史を刻むように、まるでキャンバスに乱雑に転写される墨絵のように。
その痕跡を「粋」だと思えるにはまだ僕は若い。