64.『人類凍結計画は忘却の彼方』
かつて「ろくじゅうよん」だったもの
先週の鍋を冷凍庫から取り出し、解凍した。
驚いたことに、味はまったく変わっていなかった。
凍結とは、時間を完全に封じ込めることなのだろうか。
もしも、同じ原理で人間を凍らせることができたなら?
10年くらい氷になってみるのも悪くないかもしれない。
時間の経過がなかったことになるなら、それはほとんど一瞬の出来事だ。
そう考えると、動物の冬眠は短いもののように思えてきた。
目を閉じ、目を開けるだけで未来へ進めるなら。
それはまるで、タイムマシンのようではないか。
凍結希望者の署名を募ってみると、意外にも人口の1%が集まった。
「人類の未来を見届けたい」
「新しい時代に目を覚ましたい」
そんな理由が並んでいたが、僕は場合は、ただの好奇心だった。
研究の成果を誇るように、凍結計画を可能にした博士は長々と語り続けた。
その唾が飛び散るのを見ながら、僕は彼の話を聞き流す。
この30分の演説の方が、僕にとっては凍結そのものよりも長く感じた。
だが、すべては一瞬の体験になるだろう。
僕は、この計画の企画者だった。
だからこそ、「栄えある第一号」 となることを選んだ。
ベッドに横たわると、遠くで花火が打ち上げられる音が聞こえた。
人々の歓声が、かすかに耳に届く。
この熱気は、僕が眠りにつく瞬間にはすでに過去のものとなるのだろう。
それでも、初心貫徹、僕は決意を胸に、静かに目を閉じた。
・・・。
そして、目を開けた。
だが、誰もいなかった。
・・・。
凍結人類計画は、いつの間にか忘れ去られていたのだ。
人類の数が減った方が、社会は快適だったのだろうか。
誰も、僕らの解凍を求めようとしなかった。
こうして僕たちは、生きたまま死んだような存在になっていた。
社会は、ただ流れ続けていく。
ああ、そうか、当たり前のことだった。
そして僕は思う。
誰かがいなくなったって、世界は何も変わらず回るのだろう、と。