54.『戯言喰らい』
鴨肉を捕まえたが、煮込むべきか、焼くべきか。
その判断を祖母に任せたかったが、もうその選択を聞くことはできない。
温かい食卓の記憶はあるのに、それを再現する術は失われてしまった。
筋肉がビクつく様子を見つめる彼女は無表情だった。
その冷たさが余計に僕の体を震わせる。
自分が無意識に身震いしていることにすら気づいていない彼女。
心の奥で小さな棘が刺さる感覚を覚えた。
枯れ果てた溜池を目の前にして、そこに寄付できるだけの涙が無限にあるように思えた。
だが、それはただの幻想だ。
いくら涙を流しても、乾いた大地は何も変わらない。
泣いても笑っても太陽は沈む。
これ見よがしに走り出したアイツの靴が左右でチグハグだった。
滑稽さに笑いそうになったが、あの足音が妙に響いて離れない。
あの靴は何を象徴しているのだろうか。
たったかたったか。
不調和なのか、それとも必死さなのか。
奇妙な模様の服を身にまとったあの人物が、喝采を受けている。
だが、彼を照らすスポットライトの光はどこか異常だった。
派手な演出に隠された何かが、見えない闇となっている気がした。
横断幕の裏にいるあなたは誰。
荒野に沈む夕日は、どこか物悲しい。
しかし、私にとって夕日も太陽も、昨日捨ててしまったものだ。
燃え尽きた過去の光は、今日の僕を照らしてはくれない。
たとえ明日日が昇っても僕を照らすことはない。
キーボードを叩く音が高速で鳴り響く。
効率だけでは割り切れない何かが、この音には宿っている気がする。
イヤホンのコードから流れる音楽に浸っていたつもりだった。
だが、それは切れた糸電話のように滑稽だったはずだ。
実際には音は届かず、ただ空虚な振動だけが耳の奥に響いていた。
自分の中にいる怪獣が火を噴かないのは、どうしてだろう。
彼はずっと眠り続けている。
憤怒を持っているはずなのに、それを爆発させる術がわからない。
それが残念でならない。