41.『焼却された木箱と滝つぼの底』
かつて「よんじゅういち」であったもの
古びた木箱が目の前にあった。
奇妙な模様が彫られ、威圧的で時代を超えたような佇まい。
それは今と昔を内包しているかのように、静かにそこに存在していた。
私の家は古い。
得意げに由緒を語る祖父を横目に洋風の住居に憧れを持っていた。
しかし、この木箱には鍵がなかった。
開けることも叶わず、泣く泣く炎へと委ねるしかなかった。
私はこの家を燃やすことにしたのだ。
焼却処分の火が燃え上がると同時に、何かが消えていく感覚があった。
邂逅した瞬間に失われる魂。
燃え盛る炎と、それに揺れる自分の心。
その儚さはどこか美しかった。
けれど、炎がすべてを飲み込んだ後には、何も残らなかった。
「開花した竹を待つのは誰なのか」
死んだ祖母の独り言。
意味は分からなかったが、きっとその言葉の意義も消えた。
この呪縛に私は生きてきたが生き続けることは嫌だった。
積み上げた思い出や努力も、簡単に破棄されるような苛政。
塵が積もってこそ山になるはずだったのに。
これまでの努力の足跡はどこへ消えてしまったのだろうか。
私の婚約者は遺物でしかなかったのだろう。
爆竹のように、一瞬の閃光とともに消える命。
大きいか小さいか、比べることに何の意味があるのか。
絶対命令すら姿を現さず、ただ無機質に従うことを強いられる人形たち。
彼らはなぜ、悲しみすら抱かずにいられるのだろう。
そして私の精神は、滝つぼの底へ落ちていく。
抗うことのできない流れに飲み込まれ、全方向からの暴力的な波に揉まれながら。
因果という濁流が、肉体をバラバラに引き裂いていく。
けれど、本当の意味での「本意」は、胴体だけになってからなのかもしれない。
余計なものが剥ぎ取られたとき、ようやく自分の核が見えてくる。
解体された私の身体の奥にあったのは、「黒」だった。
これは何だ。
私のものなのか、あるいは、世界が植えつけたものなのか。
答えは、炎の中に消えた。
私は黒を捨てたくて火を放った。
それなのに目を向けた先、私の手は真っ黒だった。