4.『霧の中で虚構を纏う狂気』
かつて「よん」だったもの
霧に包まれながらも、敵軍が川の対岸まで迫ってくるのを感じ取った。
恐怖はない。只々私にはこの戦況を変える使命がある。
厄介な白い霧を払いのけようと、力強く右腕を振り下ろした。
しかし、何も起こらなかった。
黒い霧がねっとりと腕にへばりついて右腕全体を覆い尽くした。
そして、手にしていた団扇さえも見えなくなった。
睡蓮と馬の鬣が描かれたその団扇。
一体誰から手渡されたのだろうか。
思い出そうとしても記憶は黒い霧の中。
まるで鎮座し続ける観察者のように、記憶は時間が経っても崩れないと思っていた。
そして、いつか彼の無念を晴らすことができれば、轟く雷鳴もやがて虚空に静まるはずだと。
青空は澄んでおり、真実だけを映し出している。
しかし、その清々しい真実を素直に受け入れられない自分がいる。
きっと平気な顔で嘘を重ねる彼女を匿って虚構を纏わせている。
風は子供の行方を示し、月が小気味良く大人たちに寄り添っていたとしても、
その湖畔の異常な静けさに、ふつふつと苛立ちを覚えた。
静まり返った狂気に包まれるこの場所で、馴れ合うつもりなど更々ない。
黒く変わった右腕を力いっぱい振り下ろす。
霧が晴れ、多くの死体が浮かんでいるのが見えた。
さあ、虐殺を始める。