39.『砂原を孤独に添えて』
かつて「さんじゅうきゅう」だったもの
どれだけ外見を取り繕っても、僕の心象風景には変わらず黄色い砂漠が広がっていた。
果てしなく続く砂の海には生き物の気配すらない。
ただただ無数の砂粒が風に吹かれているだけだった。
生活の中では同僚と笑い、家族を愛していた。
ただ、心の中は異空間だった。
そして、自分自身の世界なのに、僕はその砂漠を彷徨い続けた。
何かを探していたのか。
何かを期待していたのか。
それすらも分からないまま、ただ歩き続けた。
そんな僕の心に、ある日突然オアシスが現れた。
彼女はそこに水を湧き出させ、植物を育てた。
乾ききった砂漠に緑が生まれ、僕は不思議な心地よさに包まれた。
何人たりとも入れないはずだった僕の聖域に、彼女は自然に入り込み、さらにその場所を豊かにしていった。
だがある日、気づいてしまった。
彼女はそのオアシスの水を汲み、外に運び出していたのだ。
僕は恐る恐る聞いた。
「どこへ行っているの? それは僕たちの水だろう。」
すると彼女は毅然と答えた。
「あなたの砂漠は水を作るのに適していただけ。その水をどう使うかは私の自由でしょ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に鈍い痛みが広がった。
僕は勝手に彼女に願いを押し付け、それを妄信に変えてしまっていたのだ。
なんと愚かで、おめでたい脳内だったのだろう。
僕は彼女を心の中で丁寧に埋葬した。
そして、再び砂漠を広げた。
オアシスが生まれることはもう二度とない。
誰も入れることはない。
その孤独と苦痛こそが、僕にとっての生きる証なのだから。
砂漠の風が砂粒を巻き上げる中、僕はまた一歩を踏み出した。
その先には何もない。
ただ黄色い砂漠が、果てしなく続いているだけだった。