38.『茶色い瞳と彼女の横顔』
かつて「さんじゅうはち」だったもの
隣の席の彼女は、目立つような子ではなかった。
無難な服装に、何の変哲もない一様な化粧。
教室ではただ静かに座っているだけで、友人と話している姿を見たことがない。
そして、不思議なことに、教室の外で彼女に会うことも一度もなかった。
それでも、彼女の横顔を初めて見たとき、僕は心を奪われた。
「美しい」
そう思った。
だが、それは単なる好意や恋愛感情ではなかった。
むしろ感傷に近い感動だった。
彼女の横顔には、何か言葉で表現できない特別なものがあった。
昨夜、彼女の夢を見た。
水中に潜り、海底から太陽の光が差し込む水面を見上げる彼女。
透明な水に体を沈めているはずなのに、涙を流しているように見えた。
無数の泡が彼女の体をすり抜けて、水面へと向かっていく。
光を浴びて輝く茶色い瞳。
耳から顎にかけての曲線は、それ以上が考えられないほど完璧だった。
その光景は、ただひたすらに美しかった。
目を覚ました後も、彼女の横顔が頭から離れなかった。
夢の中で見た彼女の姿が、心に深く刻み込まれていた。
僕は彼女のことを知っているわけではない。
名前すら覚えていない。
それでも、あの横顔だけは、これからも忘れることはないだろう。