35.『焦土と化した草原、死んだ僕』
かつて「さんじゅうご」だったもの
「・・・」
言葉が出ない。
目の前にある現実を受け止めることができず、何が起こっているのか理解できない。
精神が肉体から遊離していく感覚だけが、確かなもの。
全ての感覚が鈍り、輪郭が消えていく。
体は動かず、涙も出ない。
自分の感情がどこにあるのかすら分からない。
怒り、悲しみ、諦め。
負の感情が蜷局を巻き、混ざり合って汚い色を作り出している。
それをただ、眺めるしかなかった。
「はっ」
突然、息を大きく吸った。呼吸を忘れていた。
肺に空気が入ってきていることは感じた。
まるでヘビに睨まれ、仮死状態に陥った小動物のように、生命活動そのものを忘れていたのかもしれない。
「僕は死んだ」
その事実を認めざるを得なかった。
悲しいが、それが現実だった。
振り返ってみると、あの時、僕は崩壊したのだ。
心の中に広がっていた草原が、一瞬にして焦土と化した。
命綱が前置きもなく断ち切られ、言葉も、感情も、すべてが一瞬で奪われた。
感情が理解できるのなら、それはまだ救いだと言えるのだろう。
悲しい時に応援ソングを聴き、辛い時に気分転換をする。
そうした行動は、感情を認識できているからこそ成り立つものだ。
しかし、感情が消え、自我が壊れた時、話は変わる。
底のない泥沼に沈むように、ゆっくりと、しかし確実に崩壊は進む。
それに抵抗する力もなく、ただ沈み込んでいく。
残酷なほどに静かな終わりだった。
「僕は死んだ」
そう呟く言葉には、もう感情は宿っていなかった。
そして、まだ僕は死んだままだ。