34.『深海へ心臓を沈めてみたい』
かつて「さんじゅうよん」であったもの
身体が世界と調和していない。
そんな感覚に襲われる日がある。
普段は意識すらしない胃が、今は垂れ下がっているような不快感を生む。
特定の出来事が引き金になったわけではない。
ただ、自分の頭上に重なり合った何かが、重みを増しながら思考力を奪っていく。
脳内では砂嵐のような混乱が渦巻いている。
思考は霧散し、何を考えようとしてもまとまらない。
その曖昧な苦痛が、じわじわと心に浸透していく。
大切な友人も、一蓮托生の妻も、今日は違う。
目が合うだけで、いや、彼らを意識するだけで、心が摺り潰されるような感覚が押し寄せる。
気分が苦みに変わり、言葉を発する気力すら奪われていく。
それでも、彼らにいなくなってほしいなどと思っているわけではない。
そんな幼稚な感情を抱いているわけでも、自分が死にたいと諦める気持ちに囚われているわけでもない。
ただ、異常な重力にさらされた僕の心臓が、耐えられないだけだ。
「海の底まで沈めたい」
そんな衝動が湧き上がる。
海の底に心臓を沈めれば、この重力から解放されるのではないかとさえ思う。
波の音がすべてを飲み込み、深い静寂の中で心臓が鼓動を止める。
そんな幻想が、少しだけ安らぎをもたらすような気がする。
今日という日は、ただそれだけの日だ。
明日はまた違う自分がいるかもしれない。
けれど、今この瞬間、僕はこの異常な重力にじっと耐えながら、自分の心臓が深海へと沈んでいく空想に身を委ねている。