30.『雲のように思考を散歩させること』
かつて「さんじゅう」だったもの
電線にとまっていた雀が、僕の存在に気づいて飛び立った。
世話しなく羽をバタつかせ、雫のように翼を閉じ、少し高度を下げるたびに再び羽ばたく。
その繰り返しで、小さな点となり、やがて水色の空に溶け込むように消えていった。
空には、薄い線のような雲がいくつか浮かんでいるだけだった。
田舎特有の土や草の匂いを感じながら、小道を歩く。
疲労した目と脳に休息を与えるための散歩だった。
僕は「暇」を嫌う癖がある。
エレベーターの待ち時間や信号の停止時間。
そんなわずかな間すら落ち着けない頭を不思議に思う。
何をそんなに急いでいるのだろう。
スマートフォンを手に取り、無意識に画面を眺める。
その行動の無意味さに気づきながらも、やめることができない。
「何か見えないものに操作されているみたいだ」
ふと、そう感じてがっくりくる。
僕の意思はどこにあるのだろう。
傀儡のように何かに操られるのではなく、せめて案山子のようにじっとしていたいと思った。
今日からは違う。
そう思い直し、目の前の景色に意識を戻す。
見たものを感じ取るだけでなく、見ているものさえ頭に入れないようにして、ただ漂うように歩く。
雲のように形を持たず、どこへ行くともなく、自由に漂う感覚。
それが今の僕に必要なことのように思えた。
目の前を再び小さな雀が横切った。
僕はその羽ばたきを追うのをやめ、空の青を見上げた。
そこには、薄い雲が静かに流れていた。