29.『許した彼女、許されない私』
かつて「にじゅうきゅう」だったもの
彼女の目が忘れられない。
柔らかく、慈愛に満ちたあの目。
その目を思い出すたびに、胸が締め付けられる。
私は友達が少なかった。
いも女と呼ばれ、男子に馬鹿にされる日々。
机や教科書に匿名の落書きが増えていく一方であった。
「やめなよー」
それを止めてくれるクラスメイトもいたが、彼らの口元には嘲笑が浮かんでいた。
その薄気味悪さに、私はいつも背筋を凍らせていた。
そんな中、彼女だけは違った。
本当に優しい人だった。
私を心から心配してくれる声色で、男子たちに本気で怒ってくれる子だった。
その姿を尊いと思いながら、どこか憎らしくも感じていた。
彼女の善良さが、私の心の暗い部分をさらけ出しているようだったから。
ある事件が起きた。
内容を語る気にはなれない。
自分の立場を変える千載一遇のチャンスであった。
その時、私は彼女を陥れることを選んだ。
彼女の純粋さを利用して、傷つける道を選んでしまった。
私は嘲笑を始めて浮かべた。
ねっとりとした気持ち良さに恍惚とした。
彼女は私がこんなことをするなんて、夢にも思わなかっただろう。
彼女だけが真相を察していたのだろう。
それから、彼女は学校に来なくなった。
噂では、有名な私立高校に転校したと聞いた。
ソースの分からない情報だったが、誰もそれを疑わなかった。
いなくなった人に興味を抱くような人はいなかった。
月日は流れ、今年最大の寒波が報じられる中、私は偶然、彼女と交差点ですれ違った。
マスクに厚着をしていたせいで確信はなかったが、目が合った瞬間、すべてが蘇った。
垂れたかわいい目、あの頃と変わらない優しさがそこにあった。
なんて暖かい瞳だろう。
その目は、一瞬で私を見抜いたかのように瞳孔が開き、そしてゆっくりと閉じられた。
「・・・」
私は咄嗟に顔を伏せ、足早に交差点を渡り切った。
振り返ると、彼女の姿はどこにもなかった。
その夜、彼女の目が頭から離れなかった。
その目は、私の罪を許すような優しさに溢れていた。
その許しが、眠っていた罪悪感を一気に押し上げた。
そして気づいた。
彼女の目が私を許したことで、私は私自身を許せなくなったのだと。