28.『ハリネズミが針を磨く訳』
かつて「にじゅうはち」だったもの
袋一杯の酒瓶を抱えながら、彼は家路を急いでいた。
その重さは、購入前よりも増しているように感じた。
向き合っているつもりの心情も、実際には酩酊した軽さに踊らされている。
酒に手を伸ばすたび、彼は自分を責める。
それでも、次の日にはまた同じように酒をまとめて買ってしまう。
奇妙なことに、買ったばかりのその瞬間だけは、荷物が不思議と軽く感じられるのだ。
「素面の自分は別人のようだ」
彼はそう思う。
聖人のように理性的で、穏やかな自分。
だが、赤らんだ頬で酩酊する自分は、意地悪で情けなく、周囲の人々を遠ざけてしまう。
友人も、金も、風に散る落ち葉のように消えていった。
その結果、彼はハリネズミのようになった。
孤独を抱え、寂しい顔を浮かべながら、誰も寄せ付けない針を身に纏う。
自らを守るための針のはずが、ますます鋭く、長く育っていく。
その矛盾に心を痛めながらも、どうすることもできなかった。
「この針は、いつか自分自身を傷つけるだろう」
彼はそう確信していた。
鋭い針は守りであると同時に、諸刃の剣でもあった。
やがてそれが自分の内側を刺す瞬間が来る。
それを恐れる気持ちと、避けられない運命を受け入れる気持ちが交錯する。
夜、また酒瓶の蓋を開ける音が響く。
ひとり静かな部屋の中で、彼はその剣の重さに思いを寄せていた。