27.『月と都会の戯言』
かつて「にじゅうなな」だったもの
深夜の月は、山の中で際立って見えた。
街の喧騒から遠く離れ、自然に囲まれて眠った夜、その輝きは特別なものだった。
空気は澄み渡り、意識が研ぎ澄まされていく。
周囲のすべてが霧のように消え失せ、月のしなやかな美しさだけが心を満たしていく。
彼はその光に見惚れ、魂が吸い込まれてしまいそうになる感覚を覚えた。
ふと、街中で見る月を思い出す。
雑多な干渉に晒された都会の月は、山中でのそれとはまるで異なる姿をしている。
ネオンやビルの灯りに霞み、存在を脅かされているように見える。
文明の中で飲み込まれていく遺産に同情を覚えた。
「それでも過去の個人は、月のように尊重されていたのだろうか?」
彼は自問する。
拡大する監視や詳細に規定された規則。
それらが生む抑圧感は否定しがたい。
しかし、そうした抑圧の中でこそ、個性のアクセントが生まれるのかもしれない。
月が霞む都会の中でも、美しさを見つけられる強さが欲しい、そう思う自分がいた。
いずれも戯言だ。
相対する価値観の先にある絶対的な自我は、彼にとって遠く無縁の存在だった。
都会の月を「綺麗だ」と思えるほどの強さ。
それは単なる憧れではなく、彼の心が求める大きな課題だった。
月は静かに輝き続ける。
都会でも山中でも変わることなく。
違うのは、それをどう見るかだけだった。