24.『無精髭に肉まんを添えて』
かつて「にじゅうよん」だったもの
冷たい風が吹きすさぶ中、泥に汚れた作業着が体に張り付いている。
僕は上司の手から差し出された肉まんを受け取った。
「これ、食べてみるか」
無表情で、仕事中と変わらない端的な言葉だった。
肉まんを割ると、熱々の湯気が勢いよく立ち上り、眼鏡が曇った。
一瞬、世界が白く覆われる。
その曇ったレンズ越しに、上司の顔がぼんやりと見えた。
髭だらけの無骨な顔が、なぜか笑っているように見えた。
「気のせいかな」
僕は心の中でそう呟いた。
肉まんを一口かじる。
ジュワッと溢れる肉汁が冷え切った舌に染み渡る。
口から喉へ、そして胃へと、温もりが広がっていくのがはっきりと分かった。
その感覚は、冷えた体の輪郭を浮かび上がらせるようだった。
「うまいな・・・」
自然と呟く声が漏れた。
上司はその声に何も反応せず、ただコーヒーを一口飲むと、無言で場を去った。
ぶっきらぼうで、失敗があれば大声で怒鳴るような人間だ。
これまで散々腹が立つこともあったし、嫌な奴だと思っていた。
だけど、さっき曇った眼鏡越しに見た笑顔のようなものが、頭から離れない。
肉まんの温かさと眼鏡の奥に笑顔が、心を静かに揺さぶった。
「ああ、そういうことか」
今日は、僕の33回目の誕生日だった。




