2.『錆びついた定規と切れ味の悪いナイフ』
かつて「に」だったもの
手を抜いていたわけではない。
努力を重ね、たとえ1mmでも世界に何かを残せるかもしれないと、
淡い期待を抱いていた私は、机にうずくまり、涙をこぼしていた。
崩れ去った自我を、冷たい朝日が無慈悲に貫いていた。
規範を守りつつも、錆びついた定規を新しい形に作り替えたかった。
多くの時間や思いを犠牲にし、一時的に得た脚光に満足していた。
その小さな光に酔いしれ、鼻を伸ばしていた自分がいた。
不平等に扱われても、一定の公平さはどこかに存在していたのだろうか。
その違いを、私はほんの少しだけ理解していた気がする。
それでも、平等で公平な条件が両立する世界を、この目で見ることはないのだろう。
将来のため、いつかの誰かのため、
無心で走り続け、後ろを振り返ることすら忘れていた。
倒れた人を見捨てることすら「正しい」と、私は自分に言い聞かせていた。
いまだに、その思いを捨てられない自分が、情けなくてたまらない。
ああ、零れ落ちた嗚咽を止めることもできず、
力なく垂れた両腕の重さを忘れて、
ただ、滔々と流れてゆく感情に身を任せていた。
脳裏に浮かぶ私の義務から、意図的に目を背け、
幾重にも絡まった問題をほどく努力を放棄しながら、
鈍く切れ味の悪いナイフで、じわじわとそれを潰していった。