18.『甘露を乗せた舌の皮は渦の素』
かつて「じゅうはち」だったもの
夜の静寂の中で、彼はひとり、自分の思考の迷路に迷い込んでいた。
目を閉じると浮かぶのは、甘い香りを放ちながら朽ちていく白桃。
それはかつての希望や夢の残骸を象徴しているようだった。
思考を縫う針は幾何学的で精巧だが、その裏には劣等感が隠れていた。
彼は、自分の嗜好が閉じ込められた万華鏡を覗く。
そこに映るのは無限の模様と、嘲笑うような小太りの海豹だった。
鏡越しに見る自分は、ただの幻影なのか、それとも誰かが作り出した偽物なのか。
鏡の厚みは底知れず、その裏側に何が隠されているのかを知る術はない。
自問を重ねるたびに、彼の思考はさらに混沌とした迷路へと入り込む。
出口に辿り着いたとしても待ち受けているのは孤独だけ。
絶壁を滑り落ちるような感覚の中、紺青の別れが美しさを放ちながら彼を誘惑する。
「のうのうと滔々として嬉々として爛々」
その言葉が頭の中で響くたびに、彼はただ表面を撫でるだけの存在である自分を痛感する。
小細工で作り上げた自分は、屑箱に過ぎないと気付いているのだ。
赤に潜む黒、それは彼の心の奥底にある恍惚と恐怖の混在。
独占欲と排斥の感情が、彼を迷路のさらに深い場所へと引きずり込む。
彼は途方に暮れた蟷螂のように、ただ舌を動かすだけだ。
その舌の先で感じるのは、不純物の塊が混ざり合った味。
これが彼の生きる現実なのか?
「君の唇の舌の皮、それは僕の頭の渦の素だ」
その言葉が脳内で繰り返されるたびに、彼は自身の思考の渦に飲み込まれる感覚を味わう。
すべてが曇りに覆われ、出口が見えない。
誰か、この曇りを晴らしてくれる存在はいないのだろうか。
彼は問いかけるが、答えは闇に飲まれるだけだった。