17.『白黒の部屋と色彩の心』
かつて「じゅうなな」だったもの
狭い部屋の中、彼は暗闇に浮かぶ液晶画面を見つめていた。
部屋の中には白と黒、二色だけが支配している。
壁も家具も、彼自身の服装も、まるで世界から色を排除することを選んだかのようだった。
しかし、画面の中は違った。鮮やかな色彩で溢れる世界に、彼は没頭していた。
「綺麗だな」
そう小さく呟きながら、無表情のまま画面に目を凝らす。
手元ではコントローラーがカチカチと音を立て、画面の中のキャラクターが彼の思うがままに動く。
暗い部屋の中で、彼の顔は液晶の光にライトアップされていた。
不思議なことに、その光の中で彼はわずかな安らぎを感じていた。
ゲームの中で彼は、仲間と共に洞窟を探索していた。
火を灯し、篝火の周りで一息つく。
静まり返った空間で、炎の揺らぎと薪が弾ける軽やかな音。
それは画面越しの出来事でありながら、彼の心に何か深い安堵をもたらした。
まるで、太古の記憶が遺伝子の奥底から呼び起こされたかのようだった。
だが、彼の頭の中には別の思考も渦巻いていた。
画面の向こうにいる「仲間」は、本当に信じられる存在なのだろうか。
電子の送受信を通じた交流は、所詮氷山の一角に過ぎない。
文字や音声だけでは、人間の本質をすべて知ることはできないのだ。
それでも、この距離が生み出す適度な心の間は彼にとって心地よかった。
ときには、オンラインでのやり取りが誤解を生み、激しい言葉の応酬に発展することもあった。
それでも不思議と心の琴線が通じ合う瞬間も訪れた。
「直接会ったら、どうなるんだろう」
ふと彼は思った。
瞳の奥を覗き、相手が発する空気を感じるまでは、その本質を知ることはできないのかもしれない。
それでも、今は待ってみてもいい。
画面越しの関係が深まるのを、静かに見守ろうと思った夜だった。