14.『四角の鍵穴を覗けば桃源郷』
かつて「じゅうよん」だったもの
彼は□(しかく)の中に嵌まり込んでいた。
それは規則正しく整えられた形状で、初めは心地よくさえ感じた。
だが、その四角形の中に深く潜れば潜るほど、彼の世界は急速に狭くなっていく。
視野は次第に萎んでいき、最終的には鍵穴のように小さな隙間だけが残された。
鍵穴から覗く世界は、驚くほど美しかった。
鍵穴の向こうには、万華鏡のように煌めく星々が広がっていた。
それらは彼を歓迎するように、大手を振って輝いている。
桃源郷としか呼べないその光景は、彼に安堵と興奮を与えた。
だが、その光景はあまりにも完璧で、まるで意図的に作り上げられた罠のようだった。
罠だと気付くべきだったのだろう。
しかし、彼の判断力は盲目のように奪われていた。
脳はただ本能的な快楽を求め、そこにある「正」の光に向かって突き動かされるばかりだった。
その結果、彼の歩みは自然と破滅へと向かっていった。
物事は驚くほどスムーズに進んだ。
「トントン拍子」と彼は笑いながら呟く。
その足取りは、まるで遊び心に満ちたケンケンパのようだった。
しかし、その背後では、人魚の歌声のような誘惑が彼を導き続けていた。
すべてが終わりに近づいた瞬間、彼はふいに何かに打ちのめされた。
それは肉体的な衝撃ではなく、精神の根幹を揺さぶるような出来事だった。
彼は夢から覚めたように、初めて360度の視界を手に入れた。
しかし、その視界に映ったのは、冷たい視線を送る無数の他者だった。
彼の正常な脳は、その異常な光景を到底受け入れることができなかった。
そして彼は、再び異常な世界へと逃げ込むことを選んだ。
そこではもう、現実の冷たさに触れることはない。
「さようなら」と彼は小さく呟きながら、□の奥へと戻っていった。