1.『傷ついた鎧の中で祈りを』
かつて「いち」だったもの
物心ついた頃から、私は戦場で奔走していた。
体に纏った鎧で硬い木の実を砕き、なんとか生命を繋いだ。
あの兵士の持っていた香辛料は現実を忘れるほどの刺激だった。
人工的な虚構であっても、脳は快楽に痺れた。
先陣を切るのが私の使命で、常に全身には傷が刻まれていた。
気付けば1本になっていた腕にも慣れてきた。
痛みを忘れるほどの大義に私は生きている。
積み上げられた死体の山と剣が建てられた無数の墓標を前に立ち止まり、私は思う。
そう、いつか人は死んでしまうのだ、と。
他人のことを慮っている余裕はない。
知らないで良いことも多い。
ただ、死体の1つと目が合った時、その表情を見て、
私は地獄にいるのだと自覚させられた。
子どもまで駆り出されるようになった。
おそらく戦況は芳しくはないのだろう。
純朴な彼らは無心の中、「悔いはない」と強張った顔で叫ぶ。
こんな冷徹な私でも、彼らの死には心が痛んだ。
不釣り合いな虹を見上げて、神に切実な祈りを捧げた。
私は人間である。
人間らしい体つきをしている。
それなのに、私の影は背伸びをしている。
影が小さな私に軽口を叩くので、ナイフを深く突き刺した。
私の奥歯にはまだ何かが挟まっている。
この重たい思いを何とかして屠ってやりたい。