キクチダヨ
いつもありがとうございます。
よろしくお願いします。
「菊池祭り」参加作品です。
「ねえ。菊池君帰ってきてるって聞いた?ほら、リトルリーグで同じだった…」
「うん、なんかユージからメール来てた」
夕食時。母さんはどこから仕入れてきたのか、菊池が地元に戻ってきた事を知っていた。
「アンタたち仲良かったじゃない。よく遊びに行ったりしてたでしょ?連絡しないの?」
菊池と俺はよく遊んだ。
「おーい山本!遊ぼうぜ!」「うん!待ってて!今行く!」
夏休みなど、二人で自転車に乗ってどこまでも走って行った。
あははと良く笑う菊池。二人で真っ黒に日焼けしてたっけ。
中学2年の終わり、菊池の母親が亡くなった。葬儀が終わると菊池は父親の実家へ引っ越して行った。
それからは年賀状のやり取りのみになってしまった。
「う〜ん。携帯の番号知らないんだよね」
「あ、ほら、毎年年賀状が来てたじゃない。そこに連絡先あるんじゃない?連絡してあげなさいよ。会いたい時には会えなくなる事もあるのよ」
昨年、母さんの親友って人が亡くなった。毎年連絡はしていたそうだが、病気と知った時には会える状態じゃなかったそうだ。
そしてそのまま会えずに亡くなってしまった。
母さんはかなりショックだったらしく、何かにつけて「友達とは会っておきなさい」と言うようになった。
大学生の俺にはまだ関係ないと思うけど、人間いつ何があるかわからないもんな。
「うん。そうだね。年賀状みてみるよ」
俺は自室に戻ると、机の引き出しを開けた。
そこから一つの箱を取り出す。
『年賀状』
貰った年賀状はここに入れるので、数年分の年賀状が溜まっている。
そこから菊池を探す。
今年、昨年、一昨年…
今年の年賀状には菊池の住所と名前しか書かれていなかった。
「確か…電話番号あった記憶…」
そう独り言を呟き、昨年と一昨年のハガキを取り出すと090から始まる携帯番号が書かれていた。
その横には「きくち」のサイン。
「懐かしいな」
子どもの頃、リーグのみんなと「大リーガーになった時のサイン」とか言って、自分のサインを練習して、交換し合った事を思い出す。
「ふっ(笑)大人になったんだからもっとかっこいいサイン考えろよ」
ひらがなで書かれた「きくち」
「ち」の文字の最後を伸ばし、きくちを丸で囲うようなデザインだった。
そのサインがあるのは、去年と一昨年だけ。
今年の年賀状には手書きの一言さえ書いていなかった。
「出てくれるかな…」
俺が菊池の電話番号を知らなかったように、菊池は俺の電話番号を知らない。
「090…」
数回のコールと共に、不機嫌な菊池の声。
「……もしもし…」
「菊池さんの携帯で間違いないですか?」
「……はい」
「よかった!菊池?俺だよ、山本。覚えてるか?リトルリーグで一緒だったろ?」
「……山本…ああ…山本…」
「そうだよ!こっちに戻って来てるんだって?時間合えば食事でも行かないか?」
すぐにそう切り出すと、少しの間があってから「山本…と食事。いいよ」菊池はそう答えた。
乗り気なのか乗り気じゃないのか…菊池の声は終始、淡々としたものだった。
翌週、待ち合わせ場所の居酒屋に向かう。
店の入り口に立つ菊池が目に入った。
全然変わりないな!遠目に見てそう思った。
嬉しくなって走り出す。
「待たせた!」
「…大丈夫…ダヨ」
「なんだよ!よそよそしいな」
笑って菊池の顔を覗き込む。
「え?お前だれ?」
つい口から出てしまった。
と同時に、全身に鳥肌が立つ。
姿型は間違いなく「菊池」だった。
だが「菊池」ではない。
「え?どういうこと?お前誰だよ!」
「キクチダヨ」
「違う!菊池じゃねーよ!」
「キクチダヨ」
「キクチダヨ」
キクチというモノが傷付いたレコードのように繰り返す。
「キクチダヨ」
やばいやばいやばい。
早くここから立ち去れ。
俺の本能がこれ以上関わるなと言っていた。
「……わかった。菊池…せっかく会えたけど俺、今日用事が出来ちゃったんだ。でも菊池の顔だけ見たくてさ、直接言いたかったんだ」
自分の声が震えているのがわかる。
「キクチダヨ」
「うん。悪いな。顔見たからもう行くわ」
「キクチダヨ」
「キクチダヨ」
「ああ、じゃあな」
「キクチダヨ」
俺がその場から去っても、菊池でない何かはしばらくそこにいた。
そしてその声は俺の耳まで届いていた。
「キクチダヨ」
「キクチダヨ」
「キクチダヨ…」
家に帰った俺は、年賀状を見直してみる。
去年、一昨年、その前。
全てを見比べてみると、去年と一昨年のみにサインがあった。
そして今年は印刷されただけの年賀状。
そのきくちのサインを見つめていたら、菊池がこのサインに込めたメッセージが浮かび上がってきた。
「たすけて…」
やっぱりアイツは菊池じゃなかった…
もう菊池はこの世に居ないんだと理解した。
アレは見た目だけ菊池の別の何かだ。
「ごめん、菊池…気付いてやれなくて…」
母親の言う通り、菊池にはもう二度と会えないだろう。
おわかりいただけただろうか。
活動報告の最後に答えを出しておきました。
菊池がどんなサインを残したのか。
ご興味ありましたらどうぞ。
拙い文章、最後までお読みくださりありがとうございます。
「菊池祭り」って何?
「菊池」が主人公であれば、なんでもオッケーのお祭りです。
よくわかんない。
うん。そう。ですよね。
詳しくは↓のバナーからどうぞ。(о´∀`о)