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転移666  作者: 清鳳
32/33

降臨

特殊部隊は無線で交信を続けながら、周囲を警戒している。

複数のスナイパーが周囲のビルの影に潜み、痺れた体をわずかに動かしながら、スコープを覗き込んでいた。



——その施設の中、


ベッドに横たわる少女の目は、虚ろに天井を見つめていた。

かすかな呼吸音だけが、この部屋に響く


「……」


綺麗な顔立ちに感情まで失ったようなその表情は、ただの人形のように光を失っていた。



——その屋上


夜風にコートが揺れ、テンラは月明かりに照らされていた。

腰に携えた刀に肘を掛けながら、ゆっくりと屋上の(ふち)へと歩き、下の様子を見渡す。


ふと空を見上げる。




——暗い執務室に、時計の秒針が小さく音を刻んでいた。

総理は机に両手を置き、深く息を整える。

顔は影に沈み、目は鋭く光る。


「すべてが動く。もう後には引けない…」


心の声が、静寂に染み渡った。




——アジトの中で、アヤネは千里眼を使い、血の気が引くのを感じていた。


オニはモニターの前に張り付く。


部屋に2人の呼吸だけが響く。


その静寂を切り裂くように、アヤネの声が呟きを超えて何かを確信したように響いた。


そして、上空を見上げるテンラの口元にも、同じ言葉が零れる。




「「…来た…」」





ビルの影に配置されたスナイパーの1人が、視界の端に、黒い影が映る。


反射的に銃を構えた瞬間——

心臓が脈打ち、血の気が引く。



夜空に溶け込むような漆黒の人形の黒い影。

金属光沢を帯びた繊細な曲面は、僅かな月光に鈍い光を返す。

肩口や胸部には無駄のない凹凸が走り、洗練されたその輪郭が鋼鉄の鎧のような威圧感を放つ。


それが、両手に荷物をぶら下げて、空中に音もなく浮遊していた。


スナイパーの指が引き金に触れたまま、わずかに震える。

心臓が喉元を打つ。


「……何だ、あれは…ッ?」


呟きにもならない声が、夜風に溶けて消えていった。


「——撃っていいのかッ⁈」


突如、現れた異形。動揺を隠せないスナイパーは、指示を仰ごうと、無線に手をかける


「こちらB地点ポイントシックス!上空に黒い影が出現!!目標とは識別できず!指示をッ!!」


スナイパーの緊急を要した声が、回線に流れる。地上にいた部隊がざわつき、一斉に空を見上げ警戒する。

その通信は、別の場所にいた天羽にも届いていた。


「そっちに現れたか…ッ!識別できない?…どういう事だ!」

内心の焦りが一気に募る。


天羽の声がわずかに震える。


「すぐに撃てッ!上空に現れるなど目標以外にあり得ないッ!」


天羽の声が無線に響いた瞬間、各スナイパーの指が引き金に触れる。


「——了解ッ!」


狙撃手たちが一斉に呼吸を止めた。


「3……2……1……」


無線の中の短いカウントダウン。


「——撃てッ!」


パンッ! パンッ! パァンッ!


乾いた破裂音が一斉に夜の闇を突き抜ける。


銃身がわずかに跳ね、薬莢が夜気に跳ねる金属音を立てて散った。


各スナイパーの銃口から白い煙が一瞬立ち昇り、火花のような閃光が散る。


発射された弾丸が空を裂き、鋭く唸るような音を立てて標的へと収束する。


その全ての軌道が、闇に浮かぶ黒い影へと集まった。


だが——

「キキキンッ! キンッ!」

鋭い金属音が夜空に弾けた。


弾丸は黒い影に当たった瞬間、火花を散らし、弾かれるように空中に跳ね返る。

スナイパーの1人が思わず声を詰まらせた。


「ッ⁈ …弾かれたッ⁈」


闇の中、黒い影は微動だにせず、むしろ冷たい光を宿して浮かび続けていた。


ジンは、わずかに首を傾け、月光に鈍く光る仮面が施設を見下ろした。


その黒い影の放つ威圧に、誰もが息を飲む。


「……何なんだアレは一体ッ」

心の底から湧き上がる恐怖と確信が、全員の胸を打ち鳴らした。


「狙撃が全て弾かれました!何かの装甲を纏っているものと思われますッ!」


スナイパーの1人が無線で状況を伝える。


「——弾かれただとッ⁈ライフルの銃弾を弾くなどッ⁈」

想定外の状況に、天羽の焦りが更に募る。


「装甲を纏っているなら関節部分を狙えッ!中身が人間なら、弱点はあるはずだ!!地上部隊は、目標を照らせ!——私もすぐにそちらに向かう!」


無線に向かって叫ぶように指示を飛ばす天羽。

その声の端々には、抑えようとする必死さがにじんでいた。





「オニ、いま撃った連中の位置を特定してくれ。…後で片付ける。」


「——了解」


黒いスーツを纏ったジンがオニに指示を出すと、両手に持った荷物を広げ、ゆっくりと回転し始める。


「ッ動いたぞッ⁈…何をする気だ⁈」

スナイパーの1人の声が漏れるように無線に伝わる。


ジンは、ゆっくりと体を回転させながら、両手に提げていた荷物の中身を地上に向かってばら撒いた。


静かに回転する様子は、まるで月光に舞う影のように、夜空を切り裂いて、無数の小さな金属球がばらばらと落下していく。


「ッ⁈何か投下したぞッ!!地上班、気をつけろッ!!」


スナイパーの叫びと同時に、次の瞬間——


「ドガァンッ!」「ドゴォォンッ!」


地上で連続する閃光と爆音が轟いた。

金属球は着弾すると同時に閃光を放ち、鋭い破裂音を響かせながら強烈な衝撃波を撒き散らす。


「ぐわーッ!」

「爆弾だッ!避けろーッ!」


爆風に巻き込まれ、地上の部隊が吹き飛び、煙と砂塵が瞬く間に視界を覆い尽くす。

血飛沫と共に複数が倒れ、銃声や悲鳴が断続的に混じり合った。


「ドォンッ!」「バギィンッ!」


塀の内側を囲うように次々と爆発がおこり、場内にあった車両も吹き飛んでいく。

その爆風の範囲は、中心にある施設を避けるように制御されていた。

ジンは、爆弾を落とす角度と範囲を見極め、あくまで標的を地上部隊に絞っている。


宙を漂うジンの仮面が、まるで冷たい彫像のように無表情のまま光を弾く。


「クソッ…!あんなモノ、どうすればッ⁈」


スナイパーの1人が、嘆きに似た声を漏らす。回転の止まった黒い影の弱点を探すべく、スコープを覗き込んだ。


爆炎と、ライトに照らされ、スコープの中で揺れる十字線に映し出されたジンの姿は、夜を漂う死神にように悍ましく映り込む。


スナイパーが緊張と恐怖で汗が額を伝った次の瞬間、——黒い仮面がスコープの先から正確にコチラを覗き込んだ。


「——ッ⁈」


スナイパーの心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。「位置を補足されたッ?!」


「パァンッ」


思わず引き金を引くスナイパー。


——だが、その銃弾は空を切り、黒い影は空中から姿を消していた。


「ッ消えた…⁈」


次の刹那、スナイパーの背後に「ットン」と何かが降り立つ音が走った。


恐る恐る振り返ると、月明かりに浮かぶ黒い影。

ジンの全身を覆う黒のスーツは、光を吸い込むような特殊素材で作られており、輪郭すら曖昧にする。


胸元には、赤黒く脈動するエネルギーコアが埋め込まれていた。

コアの中心が心臓のように規則正しく脈打ち、かすかな光がスーツ全体に薄く血管のように広がっていく。

その光は、彼の腕の強化アーマー部分にも連動し、金属光沢を帯びた装甲を淡く照らしていた。


腰にはワイヤーが数本、無機質な輝きを見せながら揺れ、まるで夜の亡霊のように不気味さを放つ。

ジンの仮面の奥の冷たい視線が、スナイパーを正確に射抜いていた。




スナイパーは目を見開いたまま、息を呑む——だが、すぐに視界が大きくブレた。


ジンのスーツに覆われた黒い腕が、真横からスナイパーの体に迫る。

その瞬間、鋭い風切り音と共に、圧倒的な力が襲いかかる。


「ゴシャァッ!」


一瞬でスナイパーの体が壁に向かって弾き飛ばされる。

背中からコンクリートを叩くようにぶつかり、鈍い衝撃音が夜に響いた。


「ッぐはぁっ……!」


呻き声を吐き、スナイパーの銃が手から離れ、部屋に転がる。


その間にも、ジンは微動だにせず、仮面の奥の冷たい視線をわずかに伏せてスナイパーを見下ろす。


月光に浮かび上がる漆黒の姿は、無慈悲な影のように立ち尽くしていた。


「…まず、1人目。」

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