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転移666  作者: 清鳳
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覚悟

アジトの六芒星の描かれた絨毯にジンの姿が現れる。


「帰ってきた!」


最初に気付いたのはライラだった。ジンに駆け寄り、心配そうにジンを見上げる。

彼女の目には、不安と安堵がないまぜになった複雑な光が揺れていた。


奥にいたオニも気付いたようだったが、アジトの空気はどこか重く、緊張が広がっているようだった。

まるで全員が次の言葉を待っているかのような、息を呑む空気だった。


「なんの合図もないから心配したで。なんかあったんか?」


オニがジンに尋ねる。


今回のオニの考えた作戦は、総理や、その親族を盾にし、逆に脅しをかけようというモノだった。

その為、総理を揺さぶるために、いくつかの仕掛けも準備もしていた。


だが、


「脅迫作戦は使わなかった。大槻総理の反応が想定してたのと大分違ってな。作戦を変えたい。……アヤネはどこだ?」


「アイツは、また部屋に閉じこもってる。あれからずっとあの調子や。」


母親が政府に捕まっていると知ってからアヤネは暗く、自分の部屋に篭るようになっていた。

その背中には、母を思う娘の苦しみがのしかかっているようだった。


「…俺が呼んでくる。話はそれからだ。」


アジトは広く、2階もあり、ジンは階段を登ってアヤネの部屋の前に向かうと、静かにドアを開けて中の様子を見る。


そこにはベットの上で虚無を見つめるように何かを考えながら座り込んでるアヤネの姿があった。

表情は硬く、心ここにあらずといった面持ちだった。


「…アヤネ。」


ジンが静かに声をかける。


「…ノックくらいしなさいよ。本当デリカシーないわね…」


ジンの方を一瞬目を向け、すぐに視線を逸らすアヤネ。

強気なセリフとは裏腹に、その声は暗く沈んでいた。

まるで無理に気丈に振る舞おうとして、必死に自分を守ろうとしているように。


家族を心配する気持ちはジンにも理解できた。

ましてや政府という巨大な力に目をつけられた時の抗いようの無い絶望感は計り知れないだろう。


——それでも


「…いつまで凹んでるつもりだ?バカギャルから鬱ギャルに転向か?」


ジンは敢えて明るく挑発する。

自分なりに、アヤネの殻を壊したいと思っていた。


「アンタ…アーシがいまどんな気持ちで——」


「お前の力を使いたい。お母さん、助けたいんだろ?」


ジンはアヤネの言葉を遮るように言い放つ。

その瞳は真剣で、迷いのない光を湛えていた。


「無理よ。…例えアンタがお母さんを連れ出しても、何処へ逃げる気?——ずっと追われ続ける。他の皆んなも巻き込まれるかもしれない。」


ジンは、この能力を手にして行動した時から覚悟していた。巨大な力と戦う覚悟を。

——だが、アヤネは違う。政府に捕らえられて、ジンに半ば強制的に連れ出されて、巻き込まれた形だ。

ジンとアヤネでは覚悟の前提が違っていた。


「俺はお前の力が必要で、仲間に引き入れた。政府に使われたら、俺の居場所がすぐに特定される危険もあった。

…もちろんそれは俺の勝手な都合でもある。

——だけどその責任は取るつもりだ。」


ジンの声は落ち着いていたが、その奥には確固たる決意が滲んでいた。

その言葉は、アヤネを縛る鎖ではなく、支えになろうとするものだった。


「・・・」


「次の作戦が上手くいけば、今までのように政府に追われなくなるかもしれない。家族も解放される。」


不安な気持ちは消えない。

だが、ジンの正直な言葉がアヤネに突き刺さる。

それは希望の欠片のように胸に灯る感覚だった。


「…本当にそんな事ができるの?」


「分からない。——それを確かめる為にも、お前の力が必要なんだ…。手伝ってくれないか?」


アヤネは暫く考え、ジンの方をそっと向く。

小さく息を吐いて、ジンの目を真っ直ぐ見つめると、小さな声で呟いた。


「…アヤネよ。」


「・・・?」


「お前って呼ばないで」


目に光が戻ったように見えるアヤネの強気な言葉に、ジンは笑みを溢した。

その笑顔には、どこか安堵と、仲間としての信頼がにじんでいた。





ジンはリビングに戻り、大槻総理とのやり取りの概要を皆に話した。

話している間も、ジンの目には何かを見定めようとする鋭い光が宿っていた。


「なんか良く分からなかったんだけど。影の支配者とか・・・そんなの本当にいるの?」


アヤネの疑問符にオニが答える。


「ありえへん話ではないな。どこの国も少なからず政府に影響を及ぼす存在はおるはず。

一一権力の奪い合いの世界は、きっと想像しているよりもずっと血みどろな世界や。」


オニの声には、淡々としていながらもどこか諦めにも似た現実味が滲んでいた。

アジトに異様な沈黙が広がり、オニが言葉を続ける。


「それで、ジンは大槻の言葉を信じることにしたんやな?」


「完全に信用したわけじゃない。これから確かめていく必要がある。

――けど現状は総理の条件に乗るのが、俺たちにとっても一番、都合がいいと思う。」


ジンの口調には迷いはなく、むしろ内心の決意がはっきりと滲んでいた。


「つまり、総理大臣がアーシらの味方になるって事?」


「味方っていうよりも、協力者・・・いや共犯者の方が近いかも知れへんな。」


「ともかく、まずは総理から貰った情報を確かめるのが先だ――アヤネ、ここの場所を能力で見てくれないか?」


ジンは大槻に貰った資料をアヤネに差し出す。


「そこに、施設に捕まっていた女の子がいるはずなんだ。

敵が待ち構えているはずだから、周囲の様子もくまなく見て欲しい。」


アヤネは資料を受け取り、場所を確認すると「分かった」と返事をし、両手の指を重ね、遠くを見るように集中し始めた。

その表情には、一瞬だけ緊張と不安が浮かんだが、すぐに真剣な光に変わっていった。




——視界が一気に引き寄せられ、上空から急降下するように景色がアヤネの意識に流れ込む。

そこは都心の一角。雑多なビルの間にぽっかりと異質な空間が広がっていた。


立派な門、広い駐車場、白く塗られた二階建ての会館。装飾のある外観はどこか神聖さすら演出していた。高い塀に囲まれた敷地には、黒塗りの車両が並び、防弾装備の部隊が無表情に巡回している。


アヤネは無言で目を見張り、息を呑んだ。


外からはただの宗教団体の施設に見えるが、中身はまるで戦時中の前線基地のような異様な緊張感に包まれていた。


「——見えた。たぶんここで間違いない。白い建物、広い駐車場、高い塀の中に車と、なんかヤバそうなのがいっぱいいる。」


「ヤバそうって何だよ」


「銃持ってるのとか、盾持ってるのとか…」


「特殊部隊やな。完全に待ち構えられとるんか。」


「…総理の情報通りだな。——建物の中は見れるか?」


「………だめ。中の様子が全然見えない。あの時と同じ…なにかに弾かれてるみたいな…。」


「対能力装置か。オニが前に手錠を持ち帰ってたよな?アレ何なんだ?」


ジンとオニは、アヤネを連れ出した時にはめられていた手錠を持ち帰っていた。


「…アレな。最後の戦闘で使った切り札のせいで壊れてしまったけど、どうやら電磁波を一定の周期で出す装置が仕込まれてたみたいや。」


「…電磁波?それを浴びると能力が使えなくなるのか?」


「その可能性が高い。理屈は分からへんけどな」


「総理も、対能力者の武器を急速に開発してるって言ってたな」


ジンは考えこむ。「中への潜入は不可能。仮に潜入したとしても、下手したら転移出来ずに閉じ込められるかも知れない」


「やっぱ、総理の指示通りに実行部隊を排除するしかないのか。」


ジンは特殊部隊との戦闘を思い浮かべた。訓練された部隊を相手に、生身の自分がどれほど抗えるのか。脳裏に突入作戦の危険が鮮明に浮かぶ。だが、わずかに口元に笑みが浮かぶ。


「クソ…無茶言うぜ。」


ジンの呟きには苦笑と、どこか嬉しそうな響きがあった。


「アンタ何で嬉しそうなの?こんなとこに突っ込んだら絶対撃ち殺されるわよ。」


アヤネの声には呆れと怒り、そして心配が滲んでいた。


だが、ジンには考えがあった。

例え転移能力があったとしても、生身の人間1人で、出来る事なんて限界があると初めから分かっていた。


———だから、


「オニ、アレ…完成したんだろ?」


「おう。残りの金持って、早く取りに来い言うてたわ。——いよいよお披露目やな!」


「ああ!性能テストには、ちょうどいい舞台だ。」


ジンの顔は、好奇心に満ちた強い目を光らせていた。

その瞳は、恐怖を超えてなお前を向く、狩人のような鋭さを帯びていた。

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