表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移666  作者: 清鳳
3/33

魔王の目覚め

自分の能力に気づいたジンは、その使い方、制約、リスクについて調べていた。


まずは近距離の転移、転移にかかる時間、4階から屋上まで、屋上から1階までの上下方向の転移、空中での転移。空中での転移は転移先で落下死する可能性があるため、必須研修項目だった。また、連続で転移しても身体的異常は感じられなかった。


そしてここからが本番である。


超長距離転移と、行ったことのない場所への転移だ。


今まで転移した場所は、どれも俺の馴染み深い場所ばかりで、はっきりと場所のイメージができた。


今度はエジプトに飛ぶつもりだ。


ピラミッドのクフ王の墓のてっぺんに飛んでやる! イメージしやすいし、夜ならさすがに誰にも見られないだろう。

そんなことを考えていた。


とりあえず、ピラミッドの写真を見てみる。そこに飛ぶように集中してイメージし、念じる。


何も起こらない。


知らない場所に飛ぶのは無理なのだろうか。


「位置情報をちゃんと把握せなアカンのちゃうか?」

様子を見ていたオニがアドバイスする。


今度はクフ王の墓の正確な位置を調べてみる。

衛星画像を使い、距離と場所を把握して少しずつアップしながら場所を特定していく。


イメージしてみる。

さっき見た衛星画像を拡大するように、ピラミッドの正確な場所と、自分が飛んだ際に転移する位置を。

そして念じる。飛べ、飛べ!


すると、光の粒子がジンの体を包み始める。


「おっ、行けそうやな!」


オニの言葉をあとに、ジンの体は粒子とともに消えていった。


ジンはクフ王のピラミッドに転移した。転移した先は、頂上から1mほど高い空中。

ジンはバランスを崩しながらも、なんとか着地する。


体勢を整えて、頂上に足をかけ、ひと呼吸おき、両手を広げてガッツポーズし、大きな声を上げた。


「よっしゃああっあぁあ!!」


ジンは歓喜に満ち溢れていた。 


この転移の成功は、ジンの野望を叶えるのに必要だったからだ。


夜のピラミッドの頂上で、ジンは思いにふけっていた。


ジンには2つ野望があった。

2つとも、ありふれた野望である。


一つは、超大金持ちになりたい夢。

もう一つは、世界平和である。


超大金持ちには、この転移能力さえあればどうにでもなる。

問題は世界平和だ。


科学に満ちた現代で、食料やエネルギーが充実してもなお、未だに世界各地で飢餓、紛争や戦争が起こっている。SNSで流れてくる戦争の被害者たち、女や子供を含めて無抵抗の民間人を平気で空爆するような世界情勢に対し、このような理不尽が平気で起こっている状況に、強烈な嫌悪感を抱いていた。

しかし、人一人の力ではどうにもならない現実に、ジンは日頃から虚無感を感じていた。


それに、ジンには重たい過去もあった。


ジンは賢いオニにも尋ねていた。どうして戦争がなくならないのかと。


オニは答える。

「それは、戦争を作ってる連中がおるからや。兵器を売ってる奴、開発してる奴、それに投資して金儲けしようとしてる奴。誰かが貧しくあり続けることで、その人の成果を搾取してる連中がおる」


「そんなのおかしいじゃねーか!」


「でも、それが現実や」


説き伏せるように話すオニの言葉に、ジンは黙り込んだ。


しばらくすると、何か閃いたかのように、目をギラつかせながら、こう呟く。


「だったら、その戦争を作ってる連中を全員ぶっ殺せばいいんじゃねーか」


「何だってできる!」

夜のピラミッドの頂上で自分の能力の汎用性に気づいたジンは、真の自由を手に入れたような全能感を感じていた。


『この能力さえあれば、気に入らない連中を全員ぶっ殺せる』


後に、史上最悪のテロリストとして世界を揺るがす、魔王が生まれた瞬間である。



家に戻ったジンは、これからの計画をオニと話し合っていた。


「何するにしても、まずはカネだろ!」


「そりゃそうや。このボロアパートともおさらばやな。ほんで、盗むんか?」


「そう! ただし、盗むのは紙幣じゃない。金塊だ」


「金塊?」


ジンはSNSで保存していた動画をオニに見せる。


そこには、巨大な地下室と思われる場所に、棚いっぱいの金の延べ棒が並んでいる映像があった。


「ヨーロッパのある王国の王宮の地下に、山のような金塊が公にされずに隠されてるらしい。でもその国に金鉱山なんて一つもないんだぜ!」


「つまり、他の国から搾取してきたってことか。アフリカの植民地支配が噂されてるとこやな」


「やっぱりそうだよな! こいつらは弱者を洗脳し、支配し、利益を貪り、人の尊厳を奪ってきたクソどもだ」


「金庫の位置情報なんか分からんやろ」


「王宮の地下にあると分かってるなら、やりようはある」


ジンは行ったことのない場所でも、扉の向こう側程度ならイメージせずとも転移することができる。

つまり、王宮内に入りさえすれば、どの扉でも自由に行き来できるのだ。


「義賊にでもなるつもりかいな」


「そうじゃない、気分の問題だ」


ジンは持たざる者だった。

日雇いのアルバイトで、ボロアパートに住み、煙と賭博に依存している典型的な搾取される側だった。

自分でもそれには気づいていた。

けれど、自分よりもっと悲惨に搾取されている世界を知っている。

僅かな砂金を集めるために、小さな体で毎日鉱山に潜る少年たちがいる。

家族のために水を汲みに行った少女が、ドローンで爆撃されている紛争地帯もある。

何もできない自分を言い訳にして直視するのを避けてきた現実。

持っている者たちとの不平等さを感じていた。


「まずは、生まれ持った不平等の象徴、王族から頂く」


ジンとオニの王室金塊強奪作戦の始まりである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 続きに期待
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ