政府の脅迫
カメラが切り替わる。正面には官房長官・一条。冷徹で威厳のある顔つき。
背後には国旗と「日本国政府」の紋章。
一条は静かに口を開く。
『本日は、先日発生した国家機関への襲撃事件について、国民の皆様に正確な情報をお伝えするため、この場を設けました。』
「ジン!オニ!テレビ見て!なんかヤバそうなんだけど。」アヤネに促され、2人はテレビの前のソファへと近づいた。
『事件は、都心郊外に設置された政府の外郭研究施設に対して行われ、職員及び関係者に多数の死傷者が出ました。政府はこれを、極めて悪質なテロ行為と見なしております。』
後ろのスクリーンに監視カメラのモノクロ映像が映る。
荒いが、そこには戦闘服姿のジンが映っている。
顔が強調されるように、映像は不自然に“拡大”され、静止。
「ジンや……カメラ映像、復元されたか。さすが政府やな……」
オニは眉間に皺を寄せ、珍しく声をひそめた。冗談では済まされない状況だと、彼も理解していた。
「・・・」
ジンは想定内で覚悟の上だと言わんばかりに黙って映像を見ていた。
『こちらの男は主犯格として、現在、全力で身元の捜索を行っています。氏名不詳、年齢は20代後半、身長は175cm前後と見られています。』
『国民の皆様におかれましては、次の被害が出る前に、この男の情報提供のご協力をお願いします。情報提供者の方には、政府から協力報酬として、その関連性に基づき最大1億円の謝礼をお渡しする準備があります。』
情報窓口の電話番号とメールアドレスがテロップに映し出される。
「懸賞金1億円やて。海賊なら大型ルーキーやな」
いつも冷静で知的なオニが、敢えて場を和ませる為に軽口を叩いてる。
だが、
「黙ってろ」とジンが告げ、顔は真剣そのものだった。
『また、事件現場から得られた映像及び証言から、複数の協力者の関与が明らかになっております。』
映像が切り替わり、
一人目、アヤネの写真が表示される。2人目はタナカ。どちらも研究室で撮影されのたのだろうか。証明写真のような構図で、犯罪者のような扱いに見え、無言で数秒映しだされた。
『こちらの女性と男性。詳細な情報は伏せますが、いずれも本件との関連が強く、共に行動していると思われます。
これら3名を、政府は重大テロ事件の容疑者として正式に認定。全国指名手配としました。』
一拍、間を置く。
『また、関連調査の一環として、関係者の身辺聴取を行っております。』
画面に、一瞬だけ別の映像が映る。
民家。警察や公安らしき人物が出入りし、ぼかし入りで女性の姿が映し出された。力なく、怯えた様子で椅子に座っている様子。
ストンッ…
「…え?うそ…。…お母さん…?」
アヤネの口から漏れ出す。声が震え、手に持っていたリモコンがゆっくりと力を失って落ちた。
「——ッ⁈」
その言葉を聞いたジンが驚きアヤネに視線を移す。アヤネは今まで見せた事ないような不安な表情を見せていた。
『現在、政府施設にて保護しており、事情を確認中です。協力的ではありますが、今後の対応次第で、さらに踏み込んだ聴取も視野に入れております。』
『ご家族の方が、少しでもご自身の立場を誤らぬよう……冷静な判断をされることを、我々としても強く望んでおります。』
視線をカメラに向けて、わずかに口角を上げる。
『もし犯人が聞いているなら、無意味な抵抗はやめて、自らの行いに責任を持ち、更なる悲劇を生む前に、一日も早く“出頭”していただくよう、強く求めます。』
『なお、本件を受け、特例的に治安維持法の一部を拡張適用する方針です。該当する者に対しては、通常の憲法上の権利は一部制限される場合があることを、念のため申し添えておきます。』
『今後も、同様の事件が発生する恐れがあります。身近な場所であっても、決して油断せず、日常の中で“不審な言動”を見かけた場合は、迷わず政府窓口へご連絡ください。』
そして、政府のロゴが映し出される。
『我々は、国家の安全保障の名の下、あらゆる措置を取っていく所存です。——以上です。」
「・・・」
アジト内に沈黙が広がる。
最初に声を上げたのライラだった。
「おねぇちゃん…大丈夫…?」
ライラは震えるアヤネの手を握る。
「完全にテロリスト扱いやな。おまけに誇張して、やってない人殺しの罪まで被せてきよった。」
「…アヤネ。今のは、お前の家族で間違いないのか…?」
ジンが問いかけると、アヤネは震える体で小さく頷いて返事をした。
(アタシはアタシでやってきた。家族なんて、もうどうでもいいのよ)
そう言っていたアヤネを思い出す。だがジンは分かっていた。「どうでもいいと思ってる奴なんて居ない。」そんなのは強がりだと。
ジンは込み上げてくる怒りを抑えながら、オニに尋ねる。
「治安維持法がどうのこうの言ってたな。アレはどういう意味だ?」
「憲法で保障された人権を無視する。つまり、場合によっては拷問のような危害を加えるって意味や。…ようするに脅しに来てる」
オニの言葉を聞いたジンは、苦悶の混じった怒りの表情を見せていた。
「…ふざけんなよ…。てめぇらの都合で捕まえて…てめぇらの都合で無関係の人間まで巻き込むのか…!」
ジンの怒りがアジトに緊張を走らせる
「——どうするつもりや。…ジン」
オニの言葉にジンは考え込む。
「どうすればいい?…保護施設を襲撃して助けた所で、自分が匿うにも限界がある。それに、また同じように他の人が巻き込まれるかも知れない。アヤネの家族がダメなら、タナカさんの家族。それもダメなら友人まで使ってくる可能性だってある。」
「…クソッ…。」
突きつけられた現状に、ジンの口から思わず悪態が漏れる。
その様子を見たオニがおもむろに話し出す。
「こんな事言いたくないけど、今回の報道は完全に罠や。投降を促したのは悪魔で表面上。——恐らく助けに行ったところを狙うのが政府の意図やろ」
オニは続ける。
「ワイも無茶するのは好きじゃないけど、相手がこう出た以上、ワイ達も、それ相応の手段を取らざるを得ないと考える。」
「オニ…何か考えがあるのか?」
「ああ、今のワイらの現状と、まだ見つからん、あの不死身の女の子をも救い出す。賭けの一手や。」
「…話してくれ。」




