排除指令
永田町――表の喧噪とは無縁の、地中深くに設けられた特別会議室。
国家の深層が動く場所。
分厚い防音扉の向こう、長テーブルを囲むのは、選ばれた“統治者”たちだ。
空調の音すら止まったような静寂の中、蛍光灯の冷たい光だけが、男たちの顔を照らす。
モニターには、作戦概要の資料が映し出されたままだ。
公安庁特別部隊・長官、**天羽**が、静かに口を開く。
「――以上が、本作戦の概要になります」
空気が重くなるのと同時に、椅子の軋む音が響いた。制服姿の男が、低く反論する。
「やはり、この作戦には私は反対だ。リスクが大きすぎる」
自衛隊統合幕僚長・桐生。長年の現場指揮を務めてきた厳格な軍人だ。
その言葉に、向かいに座る官房長官・一条が眉をひそめる。
「今さら、何を仰るのです。ここまできて慎重論とは」
「この作戦は、彼らの理性に懸けている。だが同時に――その理性の“タガ”を外しかねない危険な行為でもある」
桐生は言葉を切らず、続けた。
「彼らが人質を無視し、強硬手段に出た場合……どうするつもりか? 転移、千里眼、それに他の未知の能力。政府機関の爆破、要人の暗殺、首都圏での破壊活動……何も不可能ではない」
言葉を飲み込むように、内閣総理大臣・大槻が沈黙する。
桐生は静かに言い足す。
「むしろ、交渉による接触の可能性を模索すべきだ。懐柔こそ、最も現実的な手段だと私は考える」
「彼らと思想を共有できないことは、すでに証明されています。交渉など、幻想にすぎません」
そう断言したのは、天羽。公安の実行部を束ねる男の声は冷ややかで、温度を一切感じさせない。
「それに、研究施設襲撃以来、連中の足取りは一切掴めていない。どうやって、交渉のテーブルに“引きずり出す”おつもりです?」
重い沈黙が室内を包む。誰も言葉を挟まない。
「明確な脅威である以上、排除が最善です。仮に話し合いを望むのであれば、まず“出てきてもらう”必要がある」
桐生が口を開く。
「彼らが先に襲撃を行ったのは、こちら側の非道な動きに対する報復だと私は考える。ならば、こちらが刺激しなければ、彼らも動かない可能性はある」
天羽はすぐに切り返す。言葉に情け容赦はない。
「“かもしれない”では国家は守れません。
あれほど秘匿された研究施設を、いとも容易く突き止めた――それ自体が、この国の安全保障に対する重大な脅威です」
再び、空気が凍りつく。
天羽は表情を変えず、冷たく告げた。
「幕僚長殿が本作戦に反対されるのであれば、会議からご退席いただいて結構です。元より、自衛隊を動員する予定はございませんので」
「貴様、何を――!」
怒声をあげた桐生に、大槻が静かに言った。
「……公安長、口が過ぎるぞ」
一拍遅れて、天羽は小さく頭を下げた。
「……これは失礼を。――では、他に異論がなければ。本作戦を開始いたします」
会議が終わり、永田町の地下を出た黒塗りのセダンは、無言のまま静かに都心の道を走っていた。
公安特別部隊長・**天羽**は、後部座席で携帯端末を耳に当てる。声を発する直前、彼は一度、目を閉じた。
「……問題ありません。桐生幕僚長は多少手こずりましたが、もう動けない。意見は留保。外野で吠えるだけの立場にしておきました」
車内には低く静かな声だけが響く。電話の向こうの相手に対し、天羽は丁寧な口調を保ちつつも、どこか冷笑的な響きを含んでいた。
「ええ、作戦は予定通り進行します。“転移能力”についても……ご安心を。必ず排除します。
あれは――この国にあってはならない。我々にとっては危険な種に他なりません」
街灯の明かりが窓を流れる。天羽の瞳には一瞬、鋭い光が宿る。
『その通りだ。日本国は、“今のまま“で居てもらわなくて困る』と通話先の男が語る
『……我々の“手に負えない力”を、国家に持たせるわけにはいかない。』
「ええ、承知しております。転移能力者は必ず消します。どうかご安心を」
通話を切ると、天羽は窓の外に目をやる。夜の東京。整然とした秩序の街並み。
だが彼にとって、それは守る対象ではない。
ただ、誰かの掌の上にあるべき形として、均されていればそれでよかった。
車は静かに、赤坂の官邸エリアを離れていった。
その“始まり”の一手が静かに打たれる。
「そういや、アレまだ出来ないのか?」
ジンとオニがアジトで話をしている。アヤネとライラはソファでくつろぎ、 大きなスクリーンでアニメを見ていた。
「アレって。――ああ! ジンが欲しい言うてたやつやな。」
「そうそう! まだなのかよ?もう結構、日も経つし。」
「なによアレって・・・。」
傍らで聞いていたアヤネが訪ねてくる。
「見たら驚くぜ! 男の夢が詰まったスーパーアイテムだ!!」
目を輝かせるように語りだすジン
「なんかロクなものじゃない気がするんだけど」
「そんな事ねぇよ! アレがあれば、 刀野郎に負けることなんか無かったんだ!」
「ふーん。 まぁ楽しみにしとくー」
アヤネはまるで興味が失せたように、スクリーンに視線を戻した。
ジンはどこか残念そうな顔をしている。
「で、 進捗は分かるのか?」
切り替えてオニに尋ねなおす。
「ああ。 報告は来てる。 一週間前には8割方できてる言うてたし、もうすぐやと思うで。...ただ…」
「どうした、 問題か?」
「想定してた値段より数倍高い。 闇ルートやし、 だいぶ吹っ掛けられたな。」
「いくらだよ。」
「……1000万ドル。」
「それっていくらだ?」
「15億円や」
「——ッ15億円!?」
「まあ、実際、素材は超最高クラスやし、あれこれ詰め込んでるからな。」
「…やべーな」
言葉とは裏腹に、ジンの顔はニヤついていた。
——その時、ソファにいたライラが顔を上げる。
「……あれ?」
アヤネが手に持っていたリモコンの操作を止めた。
画面が一瞬ブラックアウトし、差し替わるように無機質なテロップが表示される。
《緊急政権放送 ――内閣官房長官・一条登壇》
「……なんか始まった?」
アヤネが訝しげに眉をひそめる。
画面に映し出されたのは、荘厳な官邸の記者会見室。
国旗を背に、内閣官房長官・一条が姿を現した。




