戦いの跡
施設内の警報音が鳴りやまぬ中、 バタンッ!と施設長の部屋が勢いよく開かれる。
「失礼します! 緊急事態です!」
警備を行っていた職員が息を切らして入って来る。
「そんな事は、この警報を聞けばわかる! 何があった?!」
初めての警報音に施設長のマトウも焦っていた。
「侵入者です! 管制室と監視室の職員が襲われて負傷! それと…」
報告を聞いたマトウの目の色が変わり、職員が伝えにくそうに一瞬、言葉に詰まる
「それと何だ! 早く言え! 」
「千里眼の能力者と、地下に幽閉していた怪力の男が姿を消しました」
「なんだと?!」
報告を聞いたマトウの血の気が引く。
(貴重な被験体を逃しただと?なんたる失態!こんな事、上にどう報告すれば・・・下手すれば私が処刑される・・・)
マトウから冷や汗が流れる。
「侵入者はどうしたっ!テンラが地下に向かったはずだ!何をしている⁈」
「それが・・・」
その時、「俺は、ここにいるぜぇ」とテンラが部屋に入って来る。
「テンラ! 何をしていた!?」
「何って。どんくせーテメーらの代わりに侵入者を撃退してやったんだろうがよ」
テンラはズカズカと中央へ向かいソファーに腰掛ける。
「戦ったのか?! それで、侵入者と被検体は?」
「あと一歩で逃げられたよ。 奴は転移の能力者だ」
「転移…だと?———そんな、バカげた力…」
マトウは驚きを隠せずにいた。
「俺の目の前で何度も使ってたぜ。最後は跡形もなく消えていった。だからもう探しても無駄だ。分かったら、このウルセー警報をさっさと止めろ」
「・・・ぐっ・・・」
マトウの表情は、焦りと苛立ちに包まれていた。
転移でアジトに戻ったジンとオニ。だが、ジンは深い傷を負い、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた瞬間、その場に崩れ落ちるように意識を失った。
それからジンは、一週間もの間、目を覚ますことはなかった。
8日目の朝。ジンが目を覚ました時、すぐ隣でライラが眠っていた。
「イテテっ」
ジンが体を起こそうとするも、テンラの一撃は想像以上に深く、今も胸には包帯が巻かれていた。
左腕を使い、何とか体を起こす。静かな寝息を立てるライラの姿が妙な安心感を与えてくれた。
だが、ジンは施設での事を思い出す。
残酷な政府の実験。
救えなかった少女。
テンラの圧倒的な戦闘力。
怒りのままに突っ込んだ自分の甘さ。
無敵だと思ってた自分の能力がまるで通じなかった。
悔しい思いと後悔の念がジンの胸をさす。
その時、「あっ!やっと起きたー!」
アヤネの声が聞こえた。
「おにぎり〜!ジン起きたわよー」
「おにぎり言うな!オニでええわい」
オニが悪態とともにトコトコ駆け寄ってきて、ベットに飛び乗る
「おはようジン。気分はどうや?」
「ああ悪くねえ。右肩はまだ痛いけどな。」
「そりゃそうや。あと2週間は安静や」
「あと2週間…。俺、どれくらい寝てたんだ?」
「1週間まるまる寝てたわよ。その間、その子がずっとアンタの面倒見ててくれたんだから、感謝しなさいよね」
アヤネが隣で寝てるライラを見ながらジンに伝える。
「そうか…。」
ジンはライラに視線を移し、ライラが握りしめるように持ってたオリーブのペンダントに手を添える。
「ライラに救われたな…。」
その時、ライラが目を覚ました。
ゆっくりと起き上がるライラにジンは優しく微笑みかける。
ジンの姿を見たライラは、みるみると目に涙が浮かんでいった。
「ジンさんっ!!」
ライラはジンの体に飛びつくように抱きついた!
「良かったぁ、よかったよぉ。。。」
「イテテ。———心配かけたな。約束通り、ちゃんと帰って来たよ。ライラのお守りのおかげだ。」
「うん。信じてたよぉー。」
ライラはジンの体に顔を埋めながら泣いた。
ジンはしばらく、ライラを安心させるように、頭を撫でていた。
ライラは顔を上げ、手で涙を拭うと、「ジンさんお腹空いてない?」と尋ねてきた。
「グゥ〜ッ」
ライラの言葉にジンの腹の虫が返事をした。
ライラはニコッと笑って「早く治るように美味しいモノたくさん作ってくるね」と明るく返し、どこか嬉しそうに台所へと向かっていった。
その様子を見届けたあと、ジンはアヤネを見て口を開く。
「あれから施設はどうなった?」
「アンタが帰ってきた後、割とすぐに騒ぎは落ち着いたみたい。でもあそこは解体されたみたいね。何台もの車が出入りして、今はもぬけの殻よ。」
「あの少女は?」
「分からない。あの子の姿は、ずっと視えないし、車が多すぎてどれがあの子を乗せたのか…」
千里眼の能力でも視えない。研究施設にはそれを封じる装置が既に開発されていた。
「…そうか」
アヤネを責める事は出来なかった。ジンは、あの時救えなかったのが、自分の力不足だったせいだと痛感しているからだ。
「あの時、俺が冷静に行動してれば…ッ。やりようはまだあったのに…ッ」
ジンが悔しさを漏らす。
「チャンスは必ずくる。ワイとアヤネで絶対に居場所を突き止めたる…。だから今は体を治す事に専念しろ」
「・・・」
オニの言葉にジンの返事は無かった。
暫くして、「あっ!」と何かを思い出したかのようにジンの口が開く。
「どないした?」
「怪力のおっさん!アマゾンに放り出したまんまだ!」
ジンが暴走する能力者を仕方なく密林に転移させたのを思い出す。
「やべーな!1週間も放置しちまった。おっさん生きてるかな…」
「ああ…それなら心配ないわよ。」
アヤネが何か知ってるように口を開いた。
その頃アマゾンでは。
密林の奥、木漏れ日の中。
そこには、野鳥を肩に乗せて、静かに瞑想しているようなおっさんの姿。
周囲には見慣れない鹿や小猿まで寄って来て、まるで“密林の仙人”。
「ふぅー。今日は何を食べようかな。」




