能力者研究施設編⑤
アヤネとオニのいる倉庫に転移して戻ってきたジン。
「うまくいったみたいやな!」
「あんた、中々やるじゃん。ちょっと見直したかも」
オニとアヤネが、ねぎらい言葉をかける。
「おおまかオニの作戦通りだったしな」
ジンはどこか照れ臭そうに流す
「中の様子はどうだ?」 ジンはすぐに切り替えてアヤネに尋ねた
「まだ騒ぎは起きてない。……けど、一人、変なのがうろついてる。」
「変なの・・・?」
「ええ…刀?みたいなの持ってる。」
「刀・・・。 そいつ、今どこにいる?」
「地下室に向かってるみたい」
「・・・おっさんが居ないのがバレたらマズイな。あと一人の場所は分かったか?」
「ずっと探してたんだけど、その子だけ見えないのよ。」
「多分、あの拘束器具を付けられてるか、もしくは部屋ごと特殊な装置が付けられてるかも知れんな」
オニが会話に割って入る。
「なんだよソレ……。アヤネの千里眼がダメなら、俺の転移も通じないかもな」
ジンに少し焦りが見える。
「でも、あの子を監視してるっぽい部屋は見つけたわ。・・・ けど中に人がいる」
「・・・行ってみるしかねえな。 こっからは俺一人で行く。二人はアジトに戻っててくれ」
不審な男の出現と、タイムリミットが迫っている状況を踏まえ、ジンは万一のため安全策を取ろうとする。
「アホ言うな!監視室に行ってもお前じゃ機械いじられへんやろ。ワイも行くで!」
オニの強い眼差しがジンに突き刺さる。
「・・・分かった。一緒に行こう。アヤネはアジトに戻す。コレを付けてくれ」
ジンはアヤネに無線を渡す。
「分かった。2人ともあんま無茶しないでよね」
静まり返った地下通路に、テンラの足音が乾いた音を立てて響く。
無言のまま、鋼鉄製の重たい扉の前で足を止める。
焼け焦げたような臭い、金属と血の匂いが微かに漂っていた。
「……静かだな。」
テンラはロックを外すと、ゆっくりと扉を押し開ける。油のきいたヒンジが軋みを上げ、鈍い光が差し込む中――その光景が現れる。
床の一部は陥没し、壁には無数のヒビ。コンクリの床には巨大な拳のような痕跡と、鋭い何かが通り抜けたような跡が交錯している。
ーーーだが、そこに怪力の男の姿は無かった。
テンラは一瞬驚いたが、狂気の笑みを浮かべ思考する。
「アイツを逃がした? ハッ、冗談だろ……! あの化物を制したのか……クク、いいねぇ――おもしれぇ。いよいよ“本物”か」
テンラは直ぐに反転し、部屋を出て地上へと歩きだした。
「狙いが能力者なら、必ず“檻”へ辿り着く。どんな奴か楽しみだなぁ」
「ここが監視室だな」
「ええ、その中に大きなモニターがある。さっきも言ったけど、中に人がいるからね!」
無線からアヤネの声がする。
ジンとオニは監視室の扉前まで来ていた。
「了解。中に転移したら強引にでも制圧するぞ! ケガすんなよオニ」
「心配すんな!猫を舐めんなよ」
オニの軽口とともに、ジンとオニは、すり抜けるように扉の先へ転移した。
中に入った時、わずかに漂う薬品と鉄錆の臭いが鼻を突く。
その中心、ひときわ大きなモニターには、無機質な部屋に拘束された少女の姿が映っていた。
「ん?何者だ貴様! どこから入ってきた!?」
中に居たのは二人。ジンに気付いた一人が驚いたように問いただす。
パシュッパシュン!!
ジンは有無をいわずに、その男にゴム弾を打ち込んだ。
男は小さなうめき声とともにその場に崩れ落ちる。
その様子を見てたもう一人の男が、 血相を変えて壁際へと走り出した。 視線の先には警報を鳴らすためのスイッチがある。
ジンは、その男が向かう方へと走り、スイッチに手を出した男の腹を蹴り飛ばした!
衝撃で吹き飛び、倒れこむ男の頭に容赦なくゴム弾を打ち込む。
室内が静かになり、 意識が失った事を確認すると、 オニはジンの胸元から飛び出しギーボードの前へと向かった。
「時間がない! 急げよ!」
「わかっとるわい」
操作を始めるオニ。 ジンは視線を大きなモニターに移した。
だが、そこに映し出された映像を見たジンは戦慄した。
――汚れた白い拘束衣を着せられた少女が、ベッドの上に固定されている。
腕、脚、首、腰、すべてを金属のベルトで押さえつけられ、わずかに動くことすらできない。
肌は青白く、瘦せ細っていた。骨ばった肩がむき出しになり、点滴とは名ばかりの、濁った薬液が腕から滴っている。
医師風の男たちが数人、顔を隠すマスクをつけて機械を操作していた。
一人が無言で電極パッドを少女の胸に貼りつけると、スイッチが入れられる。
**バチッ!**という音と共に、少女の体が跳ね上がる。
声にならない悲鳴。
口は開かれているのに、喉が潰れているのか、音は漏れない。
ジンの目が凍り付く。
「……なんだ、これ……」
その次の映像では、金属製の器具が口に無理やり押し込まれ、喉奥から何かを採取されていた。
血の混じった唾液が喉元を伝い、医者たちはそれを平然と拭いもせず、メモを取っている。
少女の両目は虚ろだった。
それでも、涙だけは流れ続けていた。
「心拍数の変動が一定範囲内に収まっている。対象は、まだ“生きたまま”耐えている」
「次は再生試験に入れ。切断器、準備」
「了解」
――モニターの端。
無造作に置かれたメス、鉈、電動ノコギリ。
すべてが“使い古された”ように血と錆で汚れている。
ジンの指先が震えた。
怒りというより、怒りを通り越した何かが、彼の内側で静かに沸騰し始めていた。
――思い出す。
父の工場が潰れた日を。
利権まみれの政治と企業が、全部壊した。
不正な税務調査。契約の打ち切り。
誰も、味方じゃなかった。
責任を押しつけられた父は、機械油にまみれた作業場で首を吊った。
母は心労で痩せ細り、金もなく、薬も尽き、最後は冷えた布団の中で静かに息を引き取った。
力と金が弱者を支配する。
まだ15歳の時だった。
あの日から、世界は敵になった――
「……クソが……」
「おい、大丈夫かジン」
ジンのただならぬ気配を感じてオニが声をかける。
その時、監視室に入って最初にゴム弾を撃たれた男が、意識を取り戻した。
朦朧としながらも、男は出口の扉へ這うようにゆっくりと動き出す。
だが、ジンの目はそれを捉えていた。
無言のまま近づき、怒りをぶつけるように──ジンは男の顔面を全力で蹴り飛ばした。
肉が裂け、血が噴き出し、歯が数本、床に飛んだ。
うめき声をあげてうなだれる男に、ジンはさらに近づき、腹部に鋭く蹴りを叩き込む。
壁際に叩きつけられた男。そのまま逃がすことなく、ジンは何度も、何度も、前蹴りで男の体を踏みつけた。
「おいっ、ジン!」
オニが思わず声を張り上げる。
怒りのまま暴れ続けるジンを止めようとするが、ジンは彼の方を一切見ようとしない。
アジトにいるアヤネは、少女の拷問実験を知っていた。ジンが激昂する事も予期できていた。千里眼で状況を視ていたアヤネは唇を噛むように黙って堪えている。
そしてジンは、倒れた男の髪をわし掴みにし、首を無理やり持ち上げる。
血まみれの顔に、自らの顔をゆっくりと近づけた。
ジンの顔には、もはや怒りの表情すらなかった。
いや、違う──すべての感情が、怒りという名の氷に変わり、張り詰めた空気となって漂っていた。
その瞳は、完全に人のそれではない。
暗い瞳孔の奥で、冷たい殺意だけが静かに燃えている。
「この子は、どこにいる」
冷徹で淡々とした問いかけに、満身創痍の男は戦慄し、すぐには答えられなかった。
──次の瞬間。
ジンの膝が男の顔面に突き刺さる。
折れた鼻から音がし、片目はすでにふさがった。
「さっさと答えろ……死にたいのか?」
表情一つ変えず、ジンが睨みつける。
痛みと恐怖に押し潰されながら、男はかすれた声を絞り出した。
「特殊被験体は……ハァ……地下一階に……通路は一本……真っ直ぐ行けば、檻の部屋に……」
ジンは一瞬だけ止まった。だが確証が足りない。——確かめなきゃ、救えない。ジンは再び男の顔面に膝蹴りを叩き込む。
「嘘つくんじゃねぇよ」
ぐちゃぐちゃになった顔に、男の涙が混じる。
「……ほんとだっ、嘘じゃない……もう、許してくれ……っ」
ジンは無言のまま、掴んでいた男の髪を離した。
そして、静かに立ち上がる。
その時、ジンの体が光に包まれる。
「待てっ!ジン!」オニが転移を察し、慌ててジンの体に飛びつき、監視室から2人の姿が消えた。




