能力者研究施設編④
「今・・・揺れたか?」
「ん? 私は何も感じなかったぞ。」
地下で起きた大きな衝撃が幾層もの鋼鉄とコンクリートに振動を呼び、 建物がわずかに震えたのをテンラは感じ取っていた。
「どうせ地下の被検体がまた暴れているのだろう。お前の感覚は鋭すぎるからな」
「少し様子を見てくる」
マトウの言葉を意に介さず、淡々と告げて部屋を出ていくテンラ。
「相変わらず気味の悪い男だ。 何を考えているのか・・・」
部屋を出るテンラの後姿を見ながら、 マトウはぼやいた。
ゆっくりと施設内の廊下を歩くテンラ。 いつもと変わらない静けさと、その中で金属音を立てながら動き回るドローン・・・ だが普段とは微妙に違う空気の流れを肌で感じ取っていた。
しばらく歩くと、廊下の角に金属の塊が転がっているのが見えた。 近づいていくと、それが警備ドローンであると分かる。 ジンが倒したドローンだ。
首元の配線が焼き切られ、鮮やかに無力化されたドローンを見て侵入者がいることを察したテンラ。
だが、 その顔は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
「ただモンじゃねえなぁー」
明らかに侵入者がいることを察したテンラ。
しかし!テンラは警報を鳴らすわけでもなく、誰かに報告することもなく、静かにその場を立ち去り、また地下へと歩き出していく。
まるで新しいオモチャを見つけたように興奮した笑みを浮かべながら。
テンラがジンの倒したドローンを見つける少し前。施設の地下深くでは鋼鉄に閉ざされた密室で、ジンは怪力の男の動きを固唾をのんで睨んでいる。
テーザー銃によって激しい電流を浴びた男は大きな衝撃痕が残された壁際で片膝を地面につかせていた。
「やったか?!」
動きが止まった男を見て攻撃が効いたかと思ったが、 ジンの期待の言葉はすぐにかき消された。
男は再び立ち上がり、またジンの方へと向いた。 先ほどと変わらぬ獣の形相で男がジンの方へと近づいていく。
しかし、その足取りは先程までより遅く感じられたのをジンは見逃さなかった。
「少しは堪えたか。 いくら能力者でも所詮は人間だもんな」
ジンの顔に少しの笑みがこぼれる。
その時、 男が再び地面を蹴り、ジンの方へと突進してくる
先程までより明らかに遅い。 だが、 触れれば即致命傷なのは変わらない。
ジンは転移ですぐさま距離をとる。 さっきよりも余裕があるように感じ取られた。
「おっさんっ! まだヤル気かよ!?」
男は正気ではない。 それでもジンは言葉を投げかける。
男は聞く耳を持たない、飢えた猛獣のように何度もジンの方へ力任せに襲い掛かる。
「しゃあねぇ!このままやるか。 電気が効くならイケる!」
ジンは再度大きく距離を取り、呼吸を落ち着かせる間もなくポーチに手を伸ばし、耳まで覆うようなゴーグルを取り出した。
一瞬の迷いなく、それを頭に装着する。 耳元で「ピッ」と音が鳴り、 ゴーグルが自動的に遮光モードへ切り替わった。
「いくぜっ」
男の猛進が迫る。ジンはその場から後方に転移しながら、ポーチから小型の円筒を取り出した。
「ォラァッ!」
床に叩きつけられた瞬間、カチリと内部の信管が作動し、閃光弾が高熱と共に炸裂した。
バァンッ!!!
視界を焼き尽くす白光が密室に弾ける。直後、鼓膜を突き破るような爆音と、耳を支配するキィィィンという残響音。
「がッ……!」
男の巨体がよろける。目を抑え、狂犬のような叫びを上げた。
閃光が爆ぜ、視界も聴覚も奪われた怪力の男がその場に立ち尽くす。
「ココだっ」
ジンは間髪入れずに転移し、男の背後に現れる。すでに手には細く、鋼のようにしなやかなワイヤーが握られていた。
一閃。
ワイヤーが空気を切る音とともに、ジンは男の上半身に絡ませる。肩から腕、胴体にかけて素早く巻きつけ、一瞬で拘束。
しかし、男は視界が潰されたまま拘束を外そうと暴れだす。
ギチィ……ギチギチ……ギィィッ……!
張り詰めたワイヤーがきしみ、まるで鋼線が悲鳴を上げるような不快な音が地下室に響く。
ワイヤーが軋むたび、金属同士が擦れ合うような音が響き、まるで拘束の限界を知らせるカウントダウンのようだった。
ジンは即座に転移し、次の瞬間には男の目の前、至近距離にテーザー銃を構えていた。
「大人しくしろっ……!」
バチィィィッ!!
電流が走り男の体がビクついた。
電極が男の胸元に食い込み、ワイヤーごしに電流が走る。拘束された腕が痙攣し、歯を食いしばる音が聞こえた。
男の動きが一瞬止まる隙を狙ってジンはすかさず男へと飛びついた。
「あっちぃッ!!」
電流浴びたせいか、それとも能力による莫大エネルギーの影響か、男の体は焼けるように熱かった。
熱い。だが飛ぶしかない。
「飛ぶぜ!おっさん」
激しい熱に耐えながらジンは転移するために集中する。
男は再び暴れだし、ギチギチと音が鳴り出す。今にも切れそうになったその時!
2人は光に包まれ、地下室からその姿を消した。
ピュウゥゥ……ギャアァァ……キチキチキチ……
朝靄の中、いくつもの鳴き声が森にこだまする。
どこかで猿が騒ぎ、鳥たちが木の上で応じるように鳴き返す。
その合間に風が吹き抜け、重く湿った空気を木々の間に撫でていく。
葉の裏に溜まった夜露が、一滴ずつ地面へ落ちる音がした。
その静けさがかえって、森の底知れぬ広がりを感じさせる。
木々は高く、幹は太く、葉は巨大で濃い緑。
見上げれば空はほとんど見えず、頭上は葉の屋根に覆われていた。
そのくせ光は、どこからか巧妙に差し込み、斑模様の明るさを地面に落としている。
広大なアマゾンの密林に、光とともに2人が現れた。
ジンは男の体を蹴るようにすぐさま距離をとり、更に転移で距離をとった。
「…フゥーっ」
ジンは一息吐き、ゴーグルを外して男の様子を伺う。
ギチギチィ・・・バチィッ! パキィン! ギンッ!!
金属音が一斉に炸裂した。
ワイヤーの数本が耐えきれず、火花を散らしながら弾け飛ぶ。
視界が戻り始めた男は、辺りの様子が一変した事に驚き、周囲を見渡し様子を伺う。
「ここなら暴れても問題ねーだろ」
男はジンの姿を捉える事はなく、ノソノソと辺りを歩き始めた。
「後で迎えに来てやっから、散歩でもしてろ」
ジンはそう言い残し、密林の中から消えていった。




