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転移666  作者: 清鳳
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転移能力

一夜明けた。


俺は昨日から自分の能力が何なのかを知るために、オニと一緒にいろんなことを試していた。


指先に念のようなものを込めて、火が出ないか、水が出ないか試してみたり。手を触れずに物を動かせないか試してみたり。

屋上に行って空が飛べないかと、風と一体になるようなイメージをしてみたり。

「大きくなぁれ!大きくなぁれ!」と巨大化を試してみたり……。


だが、何も起こらない状況に、「自分には特殊能力がないのかも」と少し落胆した。


投げやりになったギャンブル中毒のジンは、気分転換に大好きなスロットに向かうことに決めた。


「この状況でも行くんかいなー」

オニがぼやいているが、スルーする。


今日はあの店がイベントだったなー。

でも、あの店すげぇ遠いんだよな。車で40分もかかるし。

負けて帰ったら目も当てられないぞ。かといって近くの店で打っても、ボコスカやられるのは見えてるしな〜。あの店がもうちょい近かったらなー。

ワープみたいなん、できんかなー。

あー、番長で出したいなー!


そう堕落と怠惰の感情丸出しでぼやいていると、ジンの体の周りに、あの時の青暗く光る粒子が現れる。


「これ、あの時の光!?

なんだ! 何が起こるんだ?!」


慌てるジン。

オニも警戒したのか、少し離れて臨戦態勢のようなポーズを取っている。


粒子がジンの体をすべて包み込んでいき、次の瞬間!

光の粒子は一気に無造作に収縮し、ジンの姿も跡形もなく消えていった。


オニはその光景を見て、ジンがいたあたりをうろつくが、ジンの気配は一切消えていた。



何もない空間から粒子が広がり始める。今度は無造作ではなく、円形に綺麗に広がっていくように。

その中からジンの姿が現れる。


「ピーピーピーッ 扉が開いております。ピーピーピーッ 扉が開いております。」


機械音が聞こえる。


ジンはすぐに気づいた!

ここは俺が行きたかったパチンコ屋の店内(開店前)だ!


まさか……空間転移したのか?


ジンは少し戸惑いながらも、今の状況を整理する。


ここは間違いなく激アツイベントDAYのパチンコ店だ。ここから俺の家までは約30kmはある!

時間も変わってないからタイムラグもない!

その距離を瞬間移動したことになる!しかも俺が打ちたかった台の目の前だ!


自分が転移したと確信したジン。


「ピーピーピーッ 扉が開いております。」


鳴り響く機械音をよそに、ジンの思考はさらに集中する。


転移、転移!転移!!


すげぇ!! マジですげぇ能力が手に入った!!

火を出すとか、空を飛ぶとか、そんなレベルじゃない!

ここから家まで30kmもある! 30km飛べるなら100kmでも200kmでも飛べるだろ!

それに建物の中に飛べた!つまり壁などは障害にならないってことだ。

つまりどんな建物でも侵入可能ということか??

金庫の中の金も取り放題だろそれ!!


自分の能力に気づいたジンは、その能力の無限の可能性に、ふつふつと湧き上がる高揚感と、すべてを手に入れられそうな全能感を感じていた。


「お客様……?」


女性の声がして振り向くと、そこには制服を着た金髪の女性がいた。

パチンコ屋の店員さんである。


「……まだ、開店時間ではありませんよ?」


その言葉にハッとしたジンは、

「すいませんっ! トイレ借りてましたーっ!」と、逃げるように出口へ走って行った。


「やべー。店の中に転移しちまった。カメラに絶対映ってるよなー」


ジンはオニから忠告されていた。

『能力に目覚めても、絶対に人前で使ったらあかんで』


猫に助言されるのもどうなんだろうと思っていたが、オニはやたら賢いし、いろいろ面倒が増えるのは想定できるから、忠告を守るつもりだった。


「やっちまったもんは仕方ない!」


俺は金髪の店員さんが何も報告しないことを祈って、とりあえず家に帰ることにした。


ここから家まで転移で帰る!

そう決意したジンは、人目の付かないところを探していた。


郊外にあるパチンコ屋で、少し歩けば川が流れているような山間に入れる地域だった。

山の中に入り、周囲に誰もいないことを確認すると、ジンは静かに目を閉じて、さっき転移したときの感覚を思い出していた。


番長打ちたいとイメージして、ワープしたいと考えてた。

つまり、転移先をイメージして、そこにすぐに行きたいと念じるだけだ!


俺は家の中をイメージし、

「飛べ!飛べ!」と心の中で強く念じた。


すると、ジンの周りに粒子が現れ始める。


「キタっ!キタっ!!」


自分の意思で能力が発動できたことに高揚するジンの体を包み込み、小さくなって消えていった。



空間から粒子が広がっていく。


家の中にいたオニは、粒子に気づいて座って身構えていた。

広がっていく粒子の中にジンの姿を見て、転移して帰ってきたことを察したようだった。


ジンは起きた一連の事情をオニに説明すると、


「3割やな」


オニから発せられた言葉に、俺は「何が?」と返した。


「その金髪のネーチャンが上の人にチクってない確率や。まぁやってもうたもんはしゃーない。探されるにしても、もうちょい時間かかるやろ。

それにしても転移能力とか、大当たりやなぁ!」


オニの言葉に、「この猫、どこまで賢いんだろう」と考えていた。


「それよりも、これ見てくれや」


オニはタブレットをジンの方に突き出した。


いつ使い方覚えたんだ?と思ったが、素直にタブレットの画面をのぞき込む。


どうやら動画を見せたいらしい。


再生ボタンを肉球でタップすると、そこには山の中で1人のおっさんが立っていた。


「うゔー、うゔー、うぅー」


男の気持ち悪い声が聞こえる。どうやら力を込めているらしい。

すると、男の腕から血管のような模様が真っ赤に浮かび上がってくる。

男はそのまま、直径70cmはあるだろう木の前に立ち、それに両腕を回した。

次の瞬間――


「バキッ、バキバキバキィ!」


大木が根元から折られていく。

男は折った木を軽々と投げ捨て、カメラの方向に向き直り、筋肉を見せつけるようにガッツポーズしてみせた。


「こいつ、能力者か」


俺がオニに尋ねると、


「ああ、間違いない。光を浴びてから超パワーに目覚めたって自分で言ってたわ」


やっぱり、あの光を浴びると特殊能力が得られるのか!

無数に光が飛んでたし、他にも別の能力者がいるのは間違いないだろう。


「死ぬやろなー、こいつ」


オニは画面の男について、ボソッと呟いた。

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