能力者研究施設編③
「なによ、ここ、 物騒な場所ね・・・」
「下手にいじくるなよ!爆発物もあるんだからな!・・・とりあえず適当に座ってくれ」
ここは倉庫兼武器庫。 あらゆる武器や弾薬が周囲の棚に敷き詰められており、その物々しい様相にアヤネは驚いていた。
「俺たちはすぐに施設に戻って他の能力者を開放する。 弱っているところ悪いが、お前の能力を使いたい」
ジンは新しいスタンガンを手に取り、 弾薬を補充しながらアヤネに話す。
「お前じゃない・・・。アヤネよ」
「ーーアヤネか、俺はジンだ。 こいつはオニ。 さっき紹介したな」
「よろしくな」
アヤネを見上げながらオニがあいさつする
「それで、 千里眼の力で他の能力者の位置は分かるか?」
「ええ、少なくとも、あと二人いる。 施設に入る前には視えてた」
「あと二人・・・。 どんな連中だ?」
「一人は中年のオヤジ。 もう一人は女の子・・・ アーシより若い」
「中年のオヤジ!」
ジンとオニは何かに気づいたように顔を見合わせる。
「きっとあの怪力のおっさんやな」
「居場所は分かるか!?」
「ちょっと待って。 やってみる」
アヤネは両手の指先を重ね、 遠くをみるように集中しはじめた。
アヤネ目に映し出される光景は、 研究施設を映し、 分厚いコンクリートを抜け、 施設内の警備ドローンが徘徊する姿。 そして、 さらに地下へと潜っていく。
「どうだ、視えるか?」
「黙ってて!今集中してるの!」
ーーー地下深く、人工の明かりも届かないような鋼鉄の大きな密室。
その一角で、男が肩で息をしている。
筋肉は異様に膨張し、シャツはとうの昔に弾け飛んでいる。肌は紫色の血管が浮きでていた。
目は充血し鋭く、飢えた獣のように口を開けて呼吸していた。
「ーーー居た。多分あんた達の言う怪力のおっさんで間違いない」
「ホントか⁈何処にいる?」
「施設の地下。ちょうど真ん中くらい。かなり広い部屋。でも…とても正気とは思えない…」
「どう言う意味だ?」
「そのままの意味よ。目がイッちゃってるし、今にも襲ってきそう…」
「薬物投与か人体実験の影響やろな。連れ出すのは危険かも知れへんぞ」
「・・・」オニの言葉にジンが考え込む
「どうするの?」
「…行く。そんな状態なら尚更、放ってはおけねーだろ!」
「大丈夫か?相手は怪力の能力者やで。そんな奴の攻撃喰らったら1発で即死するぞ」
「ーーーやりようはある!・・・そうだろ?オニ」
オニを見るジンの目には、まるでゲームを楽しもうとするような挑戦的な目をしていた。
研究施設の地下深く、分厚い鋼鉄の扉、鋼鉄の壁、その外にも幾重にも重ねられた鉄筋とコンクリートで、核シェルターよりも頑丈に作られたであろうその大きな地下室には、壁面に叩きつけたような拳の跡が何箇所も残されていた。
鋼鉄製の支柱がねじ切られ、床にはひびが走り、コンクリート片がまるで地震の後のように散乱していた。
蛍光灯はすでにいくつかが砕け、残った数本が不規則に明滅している。
その薄暗い光の下、空気は異様な熱と鉄錆の臭いで満ちていた。
まるで、巨大な獣が暴れた直後のような、原始的な恐怖が室内に染みついている。
その部屋の中央に――男がいる。
肩で大きく息をし、筋肉は不自然なほど膨れ、腕は自分の太腿より太く、皮膚の下から紫色の血管が浮かび上がっていた。
何度も暴れたのか、関節には擦り傷と内出血が広がっている。
だが男はそれを気にする素振りもなく、ただ“闘う本能”だけを残して、膨れ上がった肉体を宙にさらしていた。
目は赤く、焦点が定まっていない。
鼻先からは荒い呼吸が漏れ、そのたびに床のコンクリ片が震えた。
理性という蓋が外れた圧力釜。
誰が近づこうものなら、即座に爆発することを、その空間そのものが物語っていた。
「想像以上にヤバそうだな…」
ジンは、その部屋の中にいた。
額に汗が流れる…
目の前に見えるは正に破壊の化身。触れれば即座にその身が砕ける事を肌で感じていた。
密室で血と薬物の混ざった異様な匂いが、更にジンの緊張を高め鼓動を早くする。
それでもジンは一歩、また一歩と男へと近づいていく。
「ーーーヨウっ!」
ジンはあえて軽く呼びかけた。
声が地下室に反響する。まるで石を深い井戸に落としたように、その音はどこまでも響き渡った。
男の赤い目が、ピクリと動いた。
次の瞬間、視線がジンに突き刺さる。
「……ッ!」
空気が一変する。
先ほどまで沈黙していた怪物のような男の全身に、再び力が漲るのが見えた。
指がわずかに動き、肩の筋肉が蠢いた。まるで今にも飛びかかってきそうな殺気。
「あいさつしてんだぜ。言葉は通じるのかおっさん!」
冷や汗を流しながら、対話を試みるジン。
ーーーしかし、男は息を荒げながら一歩、また一歩とジンに近づいていく。その目は既に獲物を見つけた野獣のようだった。
「こりゃ…ダメそうだな」
苦笑いと共にジンは少しずつ後退りする。
その瞬間ッ!男が突然吠えた!
その声はもはや人間のものではなかった。
瞬間、男の右足が床を蹴る。
その巨体が、弾丸のようにジンへと飛びかかってくる――!
両腕を大きく広げジンに迫りくる姿は、その迫力で何倍もの大きさに感じ取れる。
男が振りかぶった右腕でジンを薙ぎ払う!凄まじい風圧で粉塵が巻き起こる。
だが、その場にジンの姿は既に無かった。
「こっちだ!」
バンバンバンバンバンッ!!
高威力の銃に持ち替えたジンのゴム弾が男の背中と頭にヒットする。
衝撃で男の体が僅かに動くが、何事も無かったように反転し再びジンに目を向ける。
「やっぱりダメか…」
壁際に転移したジンは銃をしまい、…ポーチに手を伸ばすと、小型のテーザー銃を取り出した。
手の中に収まる程度のサイズ。しかしその形状は、どこか生物的な曲線を帯びており、黒光りするボディが異様な緊張感を放っている。
ジンはそのテーザー銃を一度手の中でくるりと回し、カチリと安全装置を外した。
「次はコイツだ」
ジンが装備を変えた次の瞬間に、男は既に両手を広げて襲いかかってきた。
壁を背にして、迫り来る猛獣を引きつけ、引きつけ…瞬間、転移する!
「ドォオオーーンッ」
男が鋼鉄の壁にぶつかって、爆発したような大きな音が密室に響き渡る!
鋼鉄の壁は大きく凹み、それはミサイルでも撃たれたかのような威力だった。
パシュッーーーバリバリバリバリバリッ!
背後に回ったジンの放ったテーザー銃が男を捕え、全身に強烈な電流が走る!
「ちったぁ効いたか?」
静寂が訪れ、動きの止まった男の姿をジンは息を呑むようにジッと見ていた。




