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転移666  作者: 清鳳
16/33

“テンラ“

空が柔らかなピンクとオレンジに染まり、薄い雲が光の糸を引く朝、ジンはアジトに帰ってきた。


アジトは暗く、ライラは眠っているようだ。


静かにソファに向かおうとするジンの物音に気付き、オニがトコトコ歩いてくる。


目が合う2人。言い争いの最中で無理矢理出て行ったジンは気まずそうな顔をしていた。


「ただいま…」


「おかえり。心配したで。ともかく無事で何よりや」

オニの優しい言葉に少し安堵するジン


「何があった?いや、ちゃうな。何をした?」

ジンがどんな無茶をしてきたか気が気でない様子のオニ。


「何もしてねー。」


「嘘つくな!お前があんだけ啖呵切って何もしてないわけないやろ!」


「本当に何もしてないって。厚労省の本庁爆破して動きを止めて探ろうとしたけど、変な子供に見つかって止められた」


「厚労省爆破やとっ⁈それに子供?どういこっちゃ!」

疑問だらけのオニに、ジンは屋上で出会った少年と渡された手紙について説明した。






マオから受け取った手紙の中を精査するオニの顔は真剣そのものだった。

「この手紙の中身が本当だとしたら、その子供、かなりヤバいな」


「その手紙、信用できると思うか?」


「手放しで信用はできんな。ただ、調べる価値はある。今まで殆ど手掛かり無しやったからな。」


「・・・そうか。その子供、何者だと思う?」


「分からん。政府の内部を知る者か、それとも何かの能力者か。

いずれにせよ、今はこの情報に賭けるしかない。とりあえず詳しく調べてみんとな」


「分かった。頼むよ。俺は少し休ませてもらう。」

ジンは極度の緊張を越えて疲れていたのか、ソファに腰掛けると、そのまま目を瞑って眠り入った。


「ああ、ゆっくり休め。」


その様子を見届けたオニは、手紙の中身を精査すべく、モニターの前へと駆け寄ってキーボードを叩き始めた。









コン、コン。


重厚な鉄扉にノックの音が響く。その瞬間、室内に流れていた静寂がわずかに揺れた。


「……入れ。」


低く、冷ややかな声が返る。


扉が開き、黒服の男が一歩踏み入れる。背筋を伸ばし、淡々と報告を始めた。


「失礼します。先ほど、新宿にて——能力者と思しき女を確保しました。現在は鎮静処置済みで、収容区画へ移送中です」


部屋の中央から奥に、黒革の椅子に腰掛けた男が書類から視線を上げた。

白衣を羽織った男――施設長・マトウは、常に冷えた目をしていた。まるで命に興味がない医師のように。


「何の能力者だ?」



「まだハッキリと断定は出来ませんが、カジノで連日連勝している様子から、何かの探知系の能力者である事が濃厚だと思われます。」


「ふむ……。やはりまだまだ居るようだな」


マトウは顎に指を添え、わずかに目を細めた。思考の奥底で、何か計算が動いている。


「テンラ。君に尋問を頼めるか?」


マトウが声を掛けたその先には、薄暗いソファに足を投げ出して座っていた男いた。


「バカ言うな。女子供の相手なんかできるか。てめーらでヤレ」

施設長相手に堂々と言い返すその男は傍らには刀が携えており、ただそこに置かれているだけなのに、部屋の空気がわずかに揺れていた。

研究員とも、政府役員とも思えぬ異様な雰囲気を放つテンラの言葉に、報告しにきた黒服の額に冷や汗が流れる。


まるで近づいてはいけない獣を見るようだった。


「…仕方ない。拘束具を付けたままA班の研究員に尋問させろ。能力を全て吐かせるんだ。

なるべく傷をつけるなよ。自白剤を使っても構わん。」


「はっ!承知しました。」

黒服は返事をすると、そそくさと部屋を出るように反転し、失礼しましたとだけ声をかけ、静かに扉を閉めて出て行った。


「これで3人目、いや君を合わせて4人目か。」


施設長マトウの言葉に、テンラは何も答えず、ただただ獲物を待つように静かに佇んでいた。








空は明るくなり、ソファで横になったままのジンには、寝る時には無かった毛布が掛けられていた。きっと、ライラがかけたのだろう。昨日までの緊張が少しだけ解けた気がした。


ライラの作る朝食の匂いに反応して、ジンが目を覚ます。

ウトウトしながら起き上がると、ライラが朝食を作る姿が見えた。


「ごめんなさい。起こしちゃった?」

心配に声をかけるライラに。


「おはよう。」と優しく声をかける。


昨日と変わらないジンにライラは何処か安堵したようだった。


「朝ごはん食べるよね!?」


「ああー。お願いするよ」

ライラはニコッと笑い、また台所へと向いた。


パソコンの前にオニが居ない事に気付き、「アレ、オニはどこ行った?」と声をかける。


「こっちや」

下から声が聞こえると、白い塊がソファの影から飛び出てきた。


「うわっ!びっくりした!そこに居たのか。」


「おはようジン。」


「おはよう。それで・・・何か分かったか?」

ジンは恐る恐る様子を聞く。ここでまた何も掴めなかったら、また振り出しに戻るという不安があった。


「ああ。結論から言うと、『あの手紙の中身は本物』能力者を捉えてる研究施設の可能性はかなり高い。」


「本当か!?」


「ああ、電波は遮断されて無かったみたいやけど、並みのセキュリティじゃなかったし、まず間違いないやろな。

今、ハッキング用のデバイスを用意してた所や」


「・・・そうか。」

ジンは研究施設を割り出せた事に喜んだが、同時にマオという少年が何者なのか、ますます疑問を感じていた。


「ハッキング用のデバイスって?」


ジンが尋ねると、オニはソファの脇に置いていた小さな金属ケースを引き寄せた。


「その前に、研究施設。乗り込む気なんやな?」


「ああ、能力者を救出、いや誘拐か、ともかく奴らに情報を与えない。場合によっては研究所ごと吹き飛ばす。」


ジンの声には迷いがなかった。オニは小さく息をつきながら、パチンとケースのロックを外した。


「…そう。それで研究所を吹き飛ばさせんために、これを使う」


中には黒く無機質なUSB型のデバイスがひとつ。ジンが手を伸ばしかけた瞬間、オニが軽くそれを引いた。


「扱いは慎重にな。これはワイが自作した、言うたら切り札や」


「これをどうすればいいんだ?」


「外からやと防壁が厚すぎる。でも内部の管理端末にこれを挿せば、一気にワイが操作権を奪える。施設の構造、被収容者の情報、カメラ映像までな。つまり。お前は透明人間になれると言うことや。」


「すげぇな…。つまり俺が制御室に転移すれば、コレを刺して後は動き放題か。」


「その通り、少なくともカメラ映像には残らんくなるな」


「すげー。すげーよオニ!!やっぱお前天才だよ!!天才ネコ!!」

そういってジンはオニを抱き上げてオニを讃えるよう喜ぶ


「オイオイ、デバイスの扱いには気をつけろよ!精密機械やねんから!」



「後は、装備を整えて突入するだけだな!」


ジンはゆっくりとオニを降ろした。目には希望と決意の光が宿っていた。



「ご飯できたよー!」


ライラの言葉に、ジンとオニが目を合わす。


「とりあえず飯食うか」

「せやな、腹が減っては戦はできんってな。」


2人は台所にあるテーブルへと向かっていった。





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